弘前市出身の奇才、寺山修司の著書に『ポケットに名言を』がある。学生時代、文庫本をいつもジーパンの後ろポケットに入れて読んだ。Tシャツのような本だった。もしもあの本が単行本なら、果たしてあれほど強い印象を受けたかどうか▼文庫本は実に重宝する。A6判サイズだからかさばらない。通勤電車内なら、立ったままでも手軽に読め、コンパクトなのでさっとバッグに入れられる。おまけに廉価。中古本で買ったり、レンタルや図書館で借りたりもできる▼今、文庫本が売れない時代を迎えている。国内市場は毎年5%以上縮小。この危機的事態を文芸春秋の社長は図書館のせいだとみる。社にとって収益全体の30%強を占める柱で、「市場低迷は版元にも作家にとっても命取りになりかねない」と訴える▼社長は先頃出席した全国図書館大会で「できれば(文庫の貸し出しを)やめていただきたい」と呼び掛け、物議を醸した。一方、図書館側は「利用者の声もあり、置かないというのは難しい」と対応したが…▼図書館の文庫の貸出数は、出版社側の調べによると、多い所で4分の1に達するという。この数字をどう読めばいいのか、もっと議論が必要だろう。気軽に「ポケットに名著を」。読者としては、そうお願いするしかできない。(2017.10.17)