稲刈りの時季、田んぼから姿を消した物の一つに稲架(はさ)がある。木や竹の柱に横木を何本か掛けたもので、稲木や稲掛け、稲機(いなばた)などとも呼ばれる。稲を天日干しすることでアミノ酸と糖の含有量が増すという▼稲架掛けが盛んだった秋田県南の羽後町でも見掛けなくなった。田代地区も数軒を残すのみ。うち1軒は、秋田市出身の舞踏家土方巽(ひじかたたつみ)(1928~86年)ゆかりの「鎌鼬(かまいたち)美術館」。入り口で来館者を迎える▼美術館は、土方が米沢市出身の写真家細江英公さん(84)と組んだ写真集の傑作「鎌鼬」(69年刊)が同地区で撮影されたのを記念して、地元住民らによるNPO法人が昨秋開館した。稲架は、写真集の中で土方が上に座り、遠くを見ている1枚にちなんだ▼写真集にも登場する旧家の土蔵を改修した同館は、写真集の作品や土方の関連資料を展示。死後作られた「足型」もある。大きさは23.5センチ。自らの身体表現を「舞踏」と名付け、大地を踏むことを意識し続けた土方の足が意外と小さいことに驚かされる▼舞踏は海外で「BUTOH」と呼ばれ、知名度が高い。最寄りのJR湯沢駅から車で約30分かかるにもかかわらず、イベントの際は国外からも訪れる。小さな集落に立つこぢんまりとした美術館は、舞踏の「聖地」になりつつある。(2017.10.25)