子どもの頃、よく祖父に酒を買いに行かされた。まだ量り売りをしていた時代で、酒屋はたるから升を使って持参の一升瓶に注いでくれる。たまに不思議な日があった。酒の量がちょっと多い。「おまけかな」と思っていた▼後年、酒屋の友人に「それは升の磨きだ」と教えられた。店は使い込んだ升を洗浄を兼ねて定期的に削ったという。だから磨いた後は少しだけ容量が増える。祖父は「お、きょうはもうけた。香りがいいな」と言ってコップ酒を傾けていた▼量り売りの升なら容量が多少違っても、せいぜい隣近所のいざこざ程度で済む。が、重さ1キロの基準「国際キログラム原器」に狂いがあったら、世界が混乱する。実はこの分銅、現在パリに保管されていて、汚れの蓄積などで信頼性がなくなっているという▼このため日本など5カ国の研究機関は「ご本尊」に代わる測定手法を確立。物理学の世界で量子の重さを求める「プランク定数」を使う。新手法が来年11月の国際会議で認められれば1889年から使う分銅は不要になる▼測定の世界もデジタル全盛を迎えている。メートル原器は34年前に光速測定へ。何事も「ピタリ」が求められる。誤差を許さない時代に気を引き締めながらも、メートルの上がったじいちゃんの赤ら顔が妙に懐かしい。(2017.10.26)