池井戸潤さんの小説『陸王』は、経営難の老舗足袋屋が生き残りを懸けてランニングシューズ製造に挑む物語。20人の小所帯で大手メーカーと渡り合う。TBS系でドラマも始まった。増田明美さんがマラソン解説を務めるなど、原作にないリアルさもある▼畑違いの分野に活路を見いだす点で共通項があろう。電子部品メーカー向山製作所(福島県大玉村)が、11月にもパンの製造販売を始める▼本業の苦境を見越し、2009年から生キャラメルやポップコーンを作り、国内外で高い評価を得た。今度はパン。「菓子より日々のニーズが高い。値段もコンビニと対抗できる。3食、おかずを作る体力がないお年寄りにも優しい」と織田金也社長(52)▼社員120人。昨年末、新たな方針を立てた。「100年先でも残る食品を作ろう」。手作りの良さを失わないという意味だけではない。「原発事故の処理、放射能の影響は100年単位で続く」。苦しむ古里と歩む決意だ。菓子への風評被害もあったが「東京電力からは一銭ももらっていない」▼先見性とぶれない経営方針、小所帯でもきらりと光る商品力。消費税増税分の使途を変えた首相や、二足の足袋ならぬわらじを履きこなせぬ党首、巨大与党と対峙(たいじ)する少数野党も、学ぶべきものはないか。(2017.10.30)