ある日突然、脳出血で倒れたフランスの男性の手記を読んだ。題名は『潜水服は蝶(ちょう)の夢を見る』。男性が病室で目覚めると、意識と記憶は元のままなのに頭のてっぺんからつま先までまひしていた▼重たい潜水服に閉じ込められたような絶望感の中で、かろうじて動かせる左目のまぶたを使った意思伝達の手段を見つける。アルファベットを読み上げてもらい、望む文字が来たところでまばたく。それを20万回繰り返して文章を紡いだ▼私たちの身の回りにも、病気や事故で重い脳損傷を負った人たちがいる。遷延性意識障害、いわゆる「植物状態」の患者や家族でつくる「宮城県ゆずり葉の会」は4日、設立30周年の記念式典を開いた。当初は宮城だけだった家族会は近年、北海道、九州でも発足し、活動は全国に広がる▼「改善することはない」と診断されても、ベッドに横たわる自分の親、夫や妻、子どもの表情のわずかな変化で意思をくみ取る。「生きたい。そう言っている気がする」と家族は話す▼<この宇宙のどこかに、僕の潜水服を開ける鍵はあるのだろうか?><ならば僕は行こう、そこへ>。男性の手記はそう結ぶ。重い障害を負った人たちにこそ、先進医療や技術の光を当ててほしい。「鍵はある」と家族は信じ、日々を重ねている。(2017.11.12)