歌人の与謝野晶子に「女」としての目覚めを歌いあげた一首がある。<その子二十くしに流るる黒髪のおごりの春の美しきかな>。自慢の髪にくしを通せば季節までもが心地いい、という女心が伝わる▼童から少女へ、少女から女へ。髪への関心は大人への階段を上るにつれ増す。その人は13歳の時、意識し始めたに違いない。1977年11月14日、誕生日を迎えた父に携帯用のくしを贈った。「おしゃれにも気を付けてね」。自分だけでなく家族の身だしなみも気に掛けたのだろう▼新潟市に住む横田家の長女で中学1年めぐみさんである。北朝鮮に拉致されたのが翌15日の下校中。16日の市内の天気は快晴、最高気温15.2度で、小春日和の一日だった。帰宅後は父滋さん(84)に「くし、使ってみた?」と聞きたかっただろうに…▼40年の月日が流れた。人の一生なら「不惑」だが、母早紀江さん(81)も含む横田家にとって、これほどしらじらしく響く言葉もない。「会いたい」。毎日毎日、自宅に飾る写真を見て落ち着かない心を静めている▼滋さんは近年、体が衰えてデイケアのリハビリに通う日々。頭髪はもうフサフサではない。でも、かつて「おしゃれになって髪をとかすめぐみちゃんの姿を見てみたい」と語った。一刻も早い救出を、と願う。(2017.11.15)