近海の魚が食べたくて、くぐった縄のれん。不漁のサンマは品書きにない。それでは特製の締めさばを。「案外あっさりしてますね」と言うと、「そうなんだ。今年のサバは脂の乗りがいまひとつで、水揚げも少ない」と店主▼仙台沖の初冬の魚といえば、マサバが代表格。釣りの対象としても人気だが、塩釜市越ノ浦港の遊漁船主桜井強さん(32)は「サバやブリが釣りたいと電話をもらっても、お断りすることがあります」と明かす▼東日本大震災の後、海中の様子が変化したと桜井さんは考える。震災前はあれほど釣れた回遊魚の影が薄れ、大物のマダイやヒラメが幅をきかせるようになった。マガレイも大型化している。釣り船の営業内容も、海の事情に合わせて変えざるを得ない▼震災当時、桜井さんは漁協に勤めていた。魚を運んだ石巻市内で津波にさらわれ、電柱にしがみ付いて命拾いした。その後、あの恐ろしい海の水が、ずいぶんきれいになったと感じる。松島湾の奥にある越ノ浦港にまで、イワシが入り込むようになった▼「底泥が打ち上げられたからでしょう。魚の顔触れが変わったのにも関係があるのかな」。海はいつまでも美しいままで、と願う。大賛成。でも、仙台沖のマサバを味わえないのは寂しい。海の神様、そこは何とか。(2017.11.19)