「何十年やろうと、また新しい1年に挑むだけさ」と戸田靖男さん(84)は笑った。仙台市の混声合唱団「クール・リュミエール」を指揮して59年を数える。先週、51回目の演奏会を成功させて、気持ちはもう来年に向く▼今年取り上げた1曲が、戦前、胸の病で24歳で逝った詩人立原道造の遺作3編の『風に寄せて』(尾形敏幸さん作曲)。間近な死を悟り葛藤する詩人が、吹く風に心を託し自らと対話しながら、新しい生と愛への憧れを見いだす▼爽やかさと叙情に満ちた組曲は高校生らに人気で、作曲者も題名に「若いひとたちのための」とわざわざ添えた。が、戸田さんはプログラムからその一文を削った。むしろ「人生経験を積んだ大人たちだからこそ、やっと歌えるようになった」と▼合唱団の創立20周年だった1976年。戸田さんは東北大生時代に合唱指導を受けた仙台出身の作曲家、福井文彦に記念作品と指揮を委嘱した。だが本番直前に福井は急逝し、追悼演奏に。没後40年の昨年には心の師の代表作を再演し、「音楽に永遠の生命を感じた」▼死への不安がわが事になった年代ゆえに、詩人の新しい生への憧れにも共感できるという。「楽譜を正確に鳴らすだけじゃない、『アナログ世代』の奥深さがある。挑戦に早い、遅いはないんだ」(2017.12.1)