巨大な波に翻弄される舟3艘(そう)。乗り組む人たちは身をすくめている。葛飾北斎の浮世絵『富嶽三十六景』の一つ、名作『神奈川沖浪裏(なみうら)』である。度肝を抜かれる奇抜な構図。「あり得ない風景」と感じながらも、自然のダイナミズムが伝わってくる▼この船については「あり得ないだろ」と思いつつ感動は一切なく、むしろむなしささえ覚える。北朝鮮籍とみられる木造船である。日本海沿岸に漂流や漂着が相次ぎ、11月だけに限れば過去4年で最多の28件。昨年の4件に比べると突出している▼北朝鮮の漁師は追い詰められている。国際社会による経済制裁で外貨獲得のため沖合の漁業権を中国に切り売りした揚げ句、日本の排他的経済水域内にある好漁場「大和堆(たい)」にまで出漁。海上保安庁のある幹部は「荒天に耐えられず北西の風に押し流されたのだろう」とみる▼同情している場合ではない。北海道松前町の無人島に一時避難した北朝鮮船の船員たちが警察に保護され、「島から家電を盗んだ」と供述。今度はいつ彼らが東北の浜辺に上陸してくるか、気が気でない▼神奈川沖の絵の奥に平穏の象徴、富士山が見える。空には積乱雲が漂い、それはどこか大陸間弾道ミサイル「火星15」の噴射煙に見えなくもない。北朝鮮情勢は波高しである。(2017.12.6)