脚本家の倉本聡さんが歌手北島三郎さん(81)の人気の秘密を随筆で書いている。テレビ番組の収録が北海道の小樽であり、演歌の大御所は到着が遅れた。駅まで着いたのは分かり、タクシー会社に問い合わせると…▼たちまち市内全社の営業車に無線で情報が行き渡った。「見掛けた」「すぐに行け」「あっちの道路は渋滞がない」「急げ」。倉本さんは感じた。潮の香りをいつまでも残すサブちゃんに、人は古里をみているのかもしれない、と(『さらば、テレビジョン』)▼函館の高校中退後、「流し」で出発した男が歌謡界で成功を収め、やがて馬主となる。ある1頭に自身の名を付けた。キタサンブラック。父は名馬ディープインパクトの兄だが、実績はなく種付け料が弟の20分の1、50万円だった。母に至っては出走経験が全くない▼地味な血統馬は24日、中央競馬の大一番、有馬記念を駆け抜けた。史上最多タイのGI7勝。中山競馬場に集まった10万人の歓声が、かつて小樽で北島さんを送り届けた運転手たちの後押しと重なった▼<走馬燈(とう)競馬の馬を走らせる 山口誓子>。人は誰しも「いつか羽ばたこう」と古里で志を抱く。この非エリート馬はまさに夢を託されて3年走り続けた。今後は種牡馬になるという。歓喜が影絵となって回る。(2017.12.26)