「もう根雪が深く、厳しい冬です」。電話の向こうに、しんしんと降る弘前市の雪が見えた。取材の縁で18年来会いに行く人がいる。波多江たまさん、103歳。冬の度に体調を心配するが、変わらず新聞、テレビのニュースを欠かさない▼1936(昭和11)年、青年将校らが「昭和維新」を掲げて武装蜂起した二・二六事件。「国賊」として処刑された1人、青森県出身の対馬勝雄中尉=当時(28)=が波多江さんの兄だ。遺族も軍から監視され、墓の建立を禁じられ、沈黙を強いられた▼「部下だった東北の兵から古里の貧困を聞き、『財閥と癒着した政治を正し農村を救おう』という思いでした」。「兄の真実を伝えたい」と本を自費出版し、家族の体験を語ってきた。「あの時代に似てきた」が口癖だ▼非正規雇用や低収入で先の見えぬ人々、東日本大震災の傷に今もあえぐ東北の街々と、アベノミクスの恩恵を受ける大企業や富める層との格差。近隣の緊張を理由にした国の軍備増強、政権批判が聞かれなくなっていく空気…▼「新しい世をもっと生きろということ」。そんな気持ちで新年を迎える。期待するのは若者たちだという。「何が起きているかを自分の目で見て、どんな社会をつくりたいか、声に出して。あなた方が担う未来なのですよ」(2018.1.1)