野村克也さん(82)はプロ野球実働26年目の1980年、ある心境の変化に気付き現役引退を決めた。当時西武に在籍し、苦い思い出の試合という。終盤、1死満塁の好機に代打を送られ、ベンチでその攻防を見る…▼遊ゴロ併殺。「ざまあ見やがれ。俺なら外野に犠牲フライぐらいなら打てるのに」。だが試合後、チームの勝ち負けを最優先しない自分を情けなく思う。そして「ここが潮時」と、翌日球団に引退を申し出る。東北楽天の監督時代に聞いた話である▼カヌーで東京五輪を目指す日本代表級の選手が、ライバルの飲み物に禁止薬物を入れるという不祥事を起こした。悲しいのは2人とも東北関係だった。加害者は500メートルで争うフォア(4人乗り)の代表になるため1人を陽性反応の失格者として蹴落とそうとした。「ざまあ見やがれ」と薄ら笑いをするような愚行である▼32歳と25歳。後輩は失格の危機に直面した際、日頃から慕うこの先輩に相談もしていた。何ともやりきれない。それは泥の水面(みなも)をパドルでこいでいく光景に見えてきてしまう▼「手前勝手な喜びに走ったらチームは駄目になる」。野村さんは実感を込めてそうも言った。日本カヌー陣が負った傷は計り知れない。切磋琢磨(せっさたくま)する「チーム日本」をもう一度再建してほしい。(2018.1.11)