もともとは津軽か南部地方の俗謡だったという。また、大正の頃に鹿角市出身の青年教師が採録したとも伝えられる。<春になれば しがこも溶けて どじょっこだのふなっこだの 夜が明けたと思うべな>。童謡『どじょっこふなっこ』である▼「こ」は東北弁に共通する接尾辞で美しいものや親しいものを意味する。自然に溶け込む暮らしのなか、薄い氷の「しが」さえも身近であったのだろう。方言の向こうに人と風土が見える▼遠野市生まれで岩手大出身の若竹千佐子さん(63)=千葉県在住=の小説『おらおらでひとりいぐも』が芥川賞に選ばれた。全編が古里言葉で彩られている。同じ東北出身でありながら、読み始めは「?」となる箇所も多いが、知らず知らずのうちに慣れてきて、どんどん作品世界に引き込まれる▼テーマは老いである。夫に先立たれた74歳主婦は<自分の内部にあずかり知らない未知の自分がいて、…知らないところでもずっと考え続けていて>との心境になる。来し方と行く末、喪失感と孤独。遠野弁による自問自答に「おら」を見る▼作品の題に引用した宮沢賢治の『永訣(えいけつ)の朝』の詩句は本来「逝く」の意である。作者はこれに「一人で生きていく」との決意を込めた。降り掛かるあめゆじゅ(雨雪)に負けてたまるか。(2018.1.18)