「本来、福島県の地酒は黄金時代だった」と地元の日本酒通から聞いた。県内の蔵元が研さんを重ねて全国的な声価を高めるが、「酒米栽培の環境面も変化し、今は福島が最適地」との評価があるそうだ。東京電力福島第1原発事故がなければ、と残念がる▼「金寶(きんぽう)自然米栽培田」。先日訪ねた郡山市田村町の水田に立つ看板だ。1711年創業の酒蔵、仁井田本家が「稲わらを田んぼに返す」だけの肥料で酒米を自家栽培している。目指す無農薬米の酒造りを完成させた年、原発事故が起きた▼土壌汚染は免れたが「売り上げは2割落ちた」と社長の仁井田穏彦(やすひこ)さん(52)。自然に優しい農業、食品を支持する消費者ほど反応は厳しく、「福島で有機栽培に取り組んできた生産者の苦境が今も続いている」▼安全性のPRでは足りず、仁井田さんは「田んぼの学校」を毎年催す。カブトエビが生息し雑草を食べる水田のコメ作りから、新酒を搾るまでを消費者に体験してもらう。秋の感謝祭には自然・有機栽培の仲間も出店して交流する。参加者は延べ5千人を超えた▼「古里の人たちの頑張りを知った」「努力の結晶を味わいたい」。同じ日に酒蔵を訪ねた、県外で避難生活を続ける人々の一行が語った感想だ。苦悩と模索の歳月の分、福島の酒は奥深い。(2018.1.20)