「ほら吹き」と呼ばれたモハメッド・アリが1974年、ボクシング世界ヘビー級王者ジョージ・フォアマンに挑んで言い放つ。「オレはボクシングについての科学者でもある。ダンスの名手であり、偉大な芸術家でもある」▼アリは勝った。闘いを見た作家ノーマン・メイラーは「女性たちはあからさまなため息をもらし、男たちはうなだれる」(『ザ・ファイト』生島治郎訳)と記す。さらに「彼は美しくみえる」とも。感動というスポーツの深淵(しんえん)に導かれるような賛辞である▼子どもはよく知っている。生保会社が恒例「大人になったらなりたい職業」の調査結果を発表し、今年も男子でスポーツ選手が上位(2位野球、3位サッカー)に入った。勝ち負けだけではなく、アリ風に「オレは感動させたい」ということだろう▼1位の「学者・博士」も、さらに女子1位「食べ物屋さん」も、それぞれ「人の役に立ちたい」「うまいもので人を喜ばせたい」との強い思いが背景にあるのかもしれない。まさに「感動」によるつながりに価値を見いだしている▼「東北楽天はオレが優勝させてみせる」。どうか志を忘れないでほしい。そのためには科学者であり芸術家でなければならない。野球選手の夢をあっさり捨て、新聞記者になった男の忠言である。(2018.1.22)