人類はどこから来てどこへ行くのか。19世紀の英国に生きた博物学者チャールズ・ダーウィンはハトを何羽も飼い、交配を重ねた。その様子は『種の起源』に書かれている。こうしたハトがいたからこそ、生物の進化は解き明かされていった▼今世紀初頭には近畿大教授らがホウレンソウの遺伝子を組み込んだ豚を誕生させた。脂肪を植物性油のリノール酸に変えるのが目的で、教授は「人間が長い間食べてきて健康にも良い野菜の遺伝子を入れた」と語り、今も実験を続ける▼今度はサルである。21年前に英国で報告されたクローン羊「ドリー」と同じ手法を使ったサルが中国で2匹生まれた。受精卵分割とは異なり、体細胞から遺伝的に同じ情報を持つクローンの霊長類が初めてつくられた▼新聞写真をじーっと見た。2匹が体を寄せ合ってこちらを見ている。研究チームは「(クローンサルは)人類の健康、医療に貢献する」と強調するが、気になるのはやはり科学の暴走である。「個性」に重きを置かず、運命を定める社会を想像するだけでゾッとする▼カズオ・イシグロさんは小説『わたしを離さないで』で臓器提供をするクローン人間たちを描いた。科学技術の進歩は常に倫理上のジレンマを抱える。種の起源に立ち戻る議論があってもいい。(2018.1.27)