俳人坪内稔典さんがちょうど今頃の寒さの厳しい時季に作った句だろう。<心とは火の崩れた字落ち葉焚(た)く>。「たき火に当たっていると、心身がとろけていくような感じになるときがある」と自著『季語集』に書いている▼火と煙と心に、作詞家の故山口洋子さんも強い思い入れがあった。たばこである。『よこはま・たそがれ』で<くちづけ 残り香 煙草(たばこ)の煙(けむ)り>、『うそ』で<折れた煙草の吸いがらで>、『アメリカ橋』で<煙草やめたの いつからと>とうたった。紫煙は心模様そのものだった▼時は流れて、たばこの煙はもはや目のカタキである。吸う人の心を癒やす効果は否定しないながらも、多くの有害物質を含み吸わない人をも病気に巻き込む危険性をはらむ。人の体までとろかせるのははた迷惑でしかない▼厚生労働省の受動喫煙対策案がようやくまとまった。喫煙を認める既存飲食店の面積は150平方メートル以下となる方向で、当初案の30平方メートル以下から大きく後退する。「吸う権利」も配慮したとはいえ、これで健康を十分に保てるかは、けむに巻かれたような感じである▼対策案の緩い内容にがっかりしている人もいるだろう。ただ、これも前進とみたい。演歌やムード歌謡で歌われた煙の世界は少しずつだが、着実に遠ざかっていく。(2018.1.31)