「人間は水でできているから温泉に引かれるのかな」。芥川賞作家の朝吹真理子さんは、湯浴みする女性を題材にした日本画を眺めながら、新作を執筆しているという。絵の作者は小林古径や小倉遊亀だそうだ▼湯気に包まれた白い裸体、光の屈折で形を変える浴槽底のタイル、高窓から流れ込む緑の風…。絵からインスピレーションをもらい、物語を紡いでゆく。先日、大崎市の鳴子温泉であった公開対談で語っていた▼日本文学研究者のロバート・キャンベルさんが、対談のお相手。キャンベルさんは鳴子温泉ファンを自認し、「読書湯治」を提唱している。湯宿でゆったりした時間の流れに身を置き、活字に親しもうとの趣旨▼同好の士と感想を語り合うもよし。輪読するのも一興。そこから新しい文化が生まれれば、と言う。朝吹さんを対談に誘ったのもキャンベルさん。この催しの背景に、鳴子の魅力を発掘し、温泉街ににぎわいを取り戻したいとの地元の切実な願いがある▼学生時代に鳴子を訪れ、松尾芭蕉ゆかりの尿前(しとまえ)の関を散策したという朝吹さん。「(句の内容が)蚤虱(のみしらみ)…ではPRしづらいですね」と笑うキャンベルさんに、「歩けば良さが分かります」と返した。求める魅力は目の前に。結局は生かし方の問題、と言われたようだった。(2018.2.13)