作家の池澤夏樹さんは東日本大震災の発生から約1カ月後、仙台市若林区の荒浜を訪れた。「言葉を商売としている身ですが、あの現場には言葉を失いました」。東北学院大が主催する連続講座「震災と文学」でそう語った▼2013年から続く講座は作家や詩人、学者らを招き、震災を巡って思索を深めてきた。失った言葉をどう取り戻すのか、文学に何ができるのか。このほど出版された講義録『震災と文学』を興味深く読んだ▼仙台の出版社などが創設した「仙台短編文学賞」の第1回受賞作が決まった。応募作品は576編。震災がテーマの文学賞ではないが、震災に触れた作品が多かったという。大賞に選ばれた岸ノ里玉夫さんの「奥州ゆきを抄」も、奥州の浄瑠璃を軸に過去の震災の歴史を踏まえている▼既に多くの著作がある岸ノ里さんは大阪府在住で阪神大震災を体験。受賞のインタビューで、7年後にようやく阪神大震災の作品を書いた、と語っていた。「体験が自分の中に沈んで言葉として浮かび上がるまでには時間がかかる」との言葉が印象的だった▼東北が震災に見舞われて7年。時を経たからこそ語られる震災がある。震災があったからこそ生まれる言葉もある。仙台短編文学賞が新たな鼓動の受け皿となることに期待したい。(2018.3.18)