明治、大正、昭和にかけて『ニコニコ』という月刊誌があった。毎号、各界著名人の笑顔を写真で載せた。胃弱で憂鬱(ゆううつ)な表情が多かった夏目漱石、明治の元勲でいかめしい顔つきの印象が強い山県有朋…。みんな笑っている▼雑誌を創刊したのは不動貯金銀行(現りそな銀行)をつくった牧野元次郎で、「ニコニコ主義」を唱え続けた。笑って暮らせば労働意欲が湧きカネもたまる。収入の1割は貯金せよ。どうしていきなり貯金なのかいまひとつ分からないが、ま、ここは突っ込まない。にっこりである▼朝、電車を待つ駅のホームで女子高校生2人が弾むように談笑している。夜、帰宅途中に明かりがともる家々から笑い声が漏れる。いいなぁ、と思う。ふと牧野の道歌<あら不思議笑う門にはよけてゆく貧乏神の後ろ姿よ>を口ずさみたくなる▼きのう仙台に東北初の常設寄席が開館した。「魅知国(みちのく)定席(じょうせき) 花座(はなざ)」。青葉区一番町の一角にある建物の中から爆笑の波が沿道に押し寄せそうだった。「東北を明るくしたい」。席亭の白津守康落語芸術協会仙台事務所長の願いがかなうといい▼吉本興業の創業者吉本せいは芸人、観客とつながるには「心」が大切と説いた。通じ合ってこそ笑いがある。いいなぁ。どれ、財布の底をはたいてでも寄席に行くか。(2018.4.2)