東京都渋谷区松濤の閑静な住宅街で43年の歴史を重ねた「観世能楽堂」。2020年の東京五輪を控え訪日外国人旅行者(インバウンド)であふれ返る中央区銀座の複合商業施設へ移転し、20日で丸1年になった▼松坂屋銀座店跡に立つ「GINZA SIX」。高級ブランドが集まる館内をエスカレーターで地下3階に進むと、壁や調度に木目の美しさを生かした和の空間が広がる。単館だった松濤から移築した能舞台が収まる能楽堂(480席)は古典芸能の専用劇場ではなく「多目的ホール」と位置付けられる▼老松が描かれた鏡板の裏手に非常食を備蓄し、災害時に帰宅困難者1000人を3日間受け入れる。能は災害や飢饉(ききん)の犠牲者を弔う勧進能が源流にあるといい、「人々の安楽を祈るのが能楽師の使命」と観世流宗家の観世清和さん(58)▼仙台では昭和の終わり、市内の能楽愛好家らが流派の垣根を払って単館の能楽堂建設を市に働き掛けて30年になるが、実現していない。関係者は「伊達政宗をはじめ歴代の仙台藩主が能を保護してきた」と訴える▼東日本大震災ではJR仙台駅周辺で1万人以上の帰宅困難者が出た。複合施設への入居をきっかけに「公共」の機能を強めた観世能楽堂に、現状打開の手がかりを求めてはどうだろう。(2018.4.20)