河北新報社は東日本大震災後、読者である地域住民と一緒に防災・減災について考える巡回ワークショップ「むすび塾」を毎月開催し、月命日である11日に紹介記事を掲載している。今月11日朝刊に掲載されたのは、同社と高知県の地方紙である高知新聞社が共催して、高知県安芸市で開催したむすび塾についての特集である。
 高知新聞社は2016年1月から「いのぐ塾」を実施している。むすび塾とは内容や頻度がやや異なるものの、読者と防災・減災について考えるという趣旨は同じ。いのぐ塾の発足・継続には、むすび塾の存在が影響している。
 高知県は「南海トラフ地震・津波の想定エリア」であり、国内でも地震・津波の切迫性が極めて高い場所である。高知新聞社は東日本大震災の被災地で実施されているむすび塾に触発され、いのぐ塾を始めた。「いのぐ」は古い土佐弁で「しのぐ」「生き延びる」という意味があり、南海トラフ地震で犠牲者を出さない、生き延びる、という願いが込められている。

 安芸市でのむすび塾は、いのぐ塾と合わせて10月28、29の両日開催。同市伊尾木地区での夜間避難訓練を振り返って討論し、東日本大震災と熊本地震の体験者たちが講演した。筆者は、このむすび塾・いのぐ塾に専門家として参加した。今回の塾と、それを紹介した11日の特集について、次の3点を特筆したい。
 まず、語り部(震災体験者)のバランスがとても良かった。発災当時、小学6年生だった東松島市出身の志野ほのかさんは津波避難の体験を話した。名取市で被災した格井直光さんは復興情報を共有するコミュニティー誌の取り組みを紹介。宮古市の元田久美子さんは震災以前の同市田老地区の備えについて、反省を交えて語った。それにより、さまざまな立場、さまざまな場面、多くの角度から震災を学ぶことができた。熊本地震の被災地から、揺れの被害体験と避難生活について、山岡縁さんのお話があったことも重要である。
 また、塾に参加した高知県側の住民も、異なる課題を抱えたさまざまな立場の方々だった。安芸市での事前の調整、現場取材には4カ月ほど要したという。高知新聞社の担当者が足しげく通ったことで、内容の充実したワークショップとなった。地域住民と同社担当者との信頼関係や丹念な取材がなければ、内容の濃い討論は実現できなかったと思う。
 そして、11日の特集は「伊尾木に学ぼう」と締めくくられている。むすび塾が東北の外で出張型で実施するときの主目的は、東日本大震災の経験を生かしてもらうことにある。だが、「逆に多くを学んだ」というのが、筆者を含め東北から参加したメンバーの共通の感想であろう。

 南海トラフ地震想定エリアの中には、学び続け、具体的な活動に落とし込み、継続することで防災レベルを向上させている地域がある。学び続ける姿勢を忘れてはいけないと改めて訴えたことに、今回の特集の意義がある。