「大山鳴動して…」とはこのことだろう。2020年東京五輪・パラリンピックの競技会場見直し問題。ボートとカヌー・スプリント会場を巡り、小池百合子東京都知事がぶち上げた宮城県長沼ボート場(登米市)への変更案は霧散してしまった。
 東日本大震災の被災地に残ったのは、小池知事にあおられて期待を膨らました揚げ句に裏切られた不信感だ。「復興五輪の原点に立ち返る」との言葉がむなしい。独自色の花火を打ち上げて世論の注目を集める「小池劇場」の限界が見えたのではないか。
 東京都と国、国際オリンピック委員会(IOC)、大会組織委員会の4者がきのう、ボートなどの会場について現行案通り「海の森水上競技場」(都内臨海部)を新設する案で合意した。
 長沼案を断念した理由の一つが、選手村の分村が必要となるため競技団体が強く反対したことだ。競技団体との事前調整不足が対立を招き、遠隔地のハンディを解消するための論議が深まらなかった。
 長沼案の整備費は試算で海の森より割安だったが、海の森の建設を中止すると業者への補償費用が多額になるため、コスト面の優位性がなくなったとされた。
 工事に着手済みの海の森は損害賠償が発生することは当初から明らかだったはずで、都の見通しの甘さを露呈した。五輪後の海の森の利用も、維持費で多額の赤字が予想され、都民の反発を呼びそう。
 4者協議では長沼ボート場をボート・カヌー競技の五輪事前合宿地として活用するなど、被災地に貢献する案も示された。しかし、中途半端な印象は否めない。
 長沼案は、小池知事とバッハIOC会長との会談が転機だった。バッハ会長が会場変更をけん制すると、小池知事は公の場で長沼必要論を展開することがなくなった。4者協議もIOC主導で進み、都の存在感は低下していった。
 小池知事に乗せられ、振り回された宮城県にも甘さがあったと言わざるを得ない。
 村井嘉浩知事は長沼開催案を持ち掛けられると、すぐに飛びついた。整備費用の試算やプレハブ仮設住宅を活用した選手宿泊用モデルルームの建設など、受け入れ準備を一気に進めた。
 被災者には、のめり込み過ぎと映ったのではないか。最たるものは整備費などの財源だ。東日本大震災復興基金を一部充てる構想を早々に示したことに、違和感を覚えた人は少なくない。唐突な印象は拭えず、説明不足の面も少なからずあった。
 小池知事は長沼案を示すことで「復興五輪への注目が集まった」と成果を強調する。しかし、理念を浸透させるためには継続的にアピールしないと意味がない。復興五輪にかける思いは本気なのか。被災地は今後の取り組みを注視していかなければならない。