教育の理想像としては分かる。学習の「量」を減らさずに「質」も追求する、という方針はあまりにも現実離れしているのではないか。多忙を極める学校現場でこなしきれるのかどうか、疑問が残ると言わざるを得ない。
 文部科学省が公表した小中学校の次期学習指導要領の改定案である。
 指導要領は最低限教えるべき学習内容を示した教育課程の基準だ。時代の変化に対応するため、約10年ごとに改定されてきた。新要領は小学校は2020年度、中学校が21年度から全面実施される。
 かつて文科省は学習内容を3割削減する「ゆとり教育」を進め、学力低下批判を招いた。このため現在の要領では方針転換し、40年ぶりに授業時間を増やした。今回の改定も「脱ゆとり教育」路線の延長線上にあるといっていい。
 各教科で受け身ではなく、能動的な授業への改善を図ろうと、「主体的・対話的で深い学び」を打ち出したのが特徴だ。日本の子どもは身に付けた知識の応用や思考力に課題があるのは確かで、その方向性は理解できる。
 ただ、グループ活動や討論会などによる対話型の学習に本気で取り組もうとすれば、指導法の研究はもちろん、準備に手間も時間もかかる。なのに、教える知識や技能の量は同じレベルを維持したままというのでは、教員の疲弊に拍車がかかるのではないか。
 経済協力開発機構(OECD)が14年に公表した国際比較調査では、日本の中学教員の平均勤務時間は課外活動や事務作業に時間を取られ、参加34カ国・地域の中で最長だった。余裕がなく自己評価が低いまま、教壇に立つ実態が浮き彫りになっている。
 小学校では、新たに英語教育に力を入れることも負担増につながるだろう。
 英語に親しむ外国語活動を3、4年に前倒しし、5、6年は教科書を使った教科に格上げする。授業時間は現在より年間35こま純増となるが、時間のやりくりは現場の裁量に押し付けられている。
 文科省は移行期間を設け、教員研修も行うとしているが、どれだけの学校が完全に対応できるのか首をかしげたくなる。特に地方が心配だ。
 そもそも英語をきちんと指導し評価できる小学校教員は、どれだけいるのだろうか。各学校や地域の実情で違うだろうし、場合によっては外国語指導助手(ALT)任せになりかねない。
 スクラップがなく、ビルドだけでは教育現場が空回りしてしまう。安倍内閣が進める働き方改革とも関わる話だ。業務の適正化や人員増といった対策だけでなく、学習内容の重点化などの方策も避けて通れないのではないか。
 指導要領の本旨は全国的な教育水準を一定に保つことである。学校格差が広がるような事態だけは避けなければならない。環境整備が急務だ。