「全ての町民がいかなるいじめも許さない心を持ち、子どもたちが安心して学び、健やかに成長できる環境を実現する」。前文には、悲劇を繰り返すまいという決意が盛り込まれた。
 岩手県矢巾町で2015年7月、中学2年の村松亮さん=当時(13)=がいじめを苦にして自殺した問題を踏まえ町教委は、「町いじめ防止等に関する条例」の最終案を公表した。
 基本理念には「いじめを行ってはならず、いじめを認識しながら放置してはならない」「いじめは絶対に許されない行為であり根絶を目指す」など率直な文言を記した。
 村松さんの自殺を巡っては昨年12月、有識者による第三者委員会が町教委に報告書を提出。村松さんへの継続したいじめが「死にたい」と考える一因となったと認定し、「学校の対応が極めて不十分だった」と結論付けた。
 担任教諭とやりとりした生活記録ノートで何度も被害を訴えていたが、学校側はいじめと認識できなかった。担任の踏み込んだ対応と学校全体のサポートがあれば、救えた命だった。
 痛ましい教訓を町民代表の議会が制定する条例で受け継ぎ、いじめ根絶を宣言する意義は重い。実効性ある条例を目指すべきだ。
 29条から成る最終案は関係者の責務も示した。町はいじめ防止対策を総合的に推進し、各学校は教職員の資質向上と連携強化に努める。保護者は子どもにいじめは許されない行為であることを理解させ、児童生徒は互いを尊重し違いや特性を認め合う精神を身に付けることを記した。
 町教委の付属機関として第三者による「町いじめ問題対策委員会」の常設も盛り込んだ。大学教授や弁護士、医師ら6人以内で構成。防止策の実効性を高める研究を進め、いじめによる重大事態が発生した場合には調査に入る。
 町教委は素案の段階で子どもや保護者向けに概要版を作成し「心で感じてください。いじめを受けている人は何も悪くありません」「学校はいじめがないか、しっかり調べます」などと呼び掛けた。町内6小中学校では児童生徒に説明した。こうした取り組みは継続し、世代を超えて教訓をつないでほしい。
 岩手県教委によると、県内の国公私立の小中高、特別支援学校が15年度に把握したいじめは過去最高の3274件に達し、前年度を1500件も上回った。矢巾町の問題を受けて県が条例で設置した県いじめ問題対策連絡協議会は「全ての学校にいじめがあるという考えで対策に取り組む」との姿勢を示す。
 矢巾町の条例案は町議会定例会3月会議に提出され、可決を経て4月の施行を目指す。「全町民でいじめ根絶」という「矢巾モデル」を通じ、悲劇を繰り返さない方策を軌道に載せてもらいたい。