戦後、日本科学界が決別した大学における軍事研究。約70年間堅持してきたタブーの解禁が、現実味を帯びてきている。戦時中に軍事協力をしたことへの反省から生まれた原則が、骨抜きにされる懸念がある。強い危惧を感じざるを得ない。
 防衛省は2015年度、軍事分野に応用可能な基礎研究に助成する「安全保障技術研究推進制度」を始めた。狙いは大学など民間が先導する先端技術の防衛装備への転用。民生両面で利用可能な「デュアルユース技術」の発掘だ。 当初3億円だった制度の予算規模は、17年度予算案で110億円に膨れ上がった。
 科学界は動揺している。「科学者の国会」と言われる日本学術会議では今、制度受け入れの是非を巡る議論が大詰めを迎えている。
 会長の大西隆・豊橋技術科学大学長は16年4月、「自衛目的の範囲なら認められる」との見解を表明。学術会議が1950年に発表した「戦争を目的とする科学の研究には絶対従わない」とする声明見直しの検討に入った。
 学術会議内の検討委員会は今年1月、「政府による介入の度合いが大きい」と警鐘を鳴らす中間報告を発表。都内であった公開討論では「研究者は応募しないと明記せよ」など反対が大勢を占めた。
 制度に応募しない大学は少なくない。東北大は軍事研究に歯止めをかける指針の策定に取り組む。滋賀県の大学は「軍学共同反対滋賀連絡会」を設立した。各大学内での議論も活発化している。
 しかし、現実は一歩も二歩も先を行く。公開討論では「軍事研究イコール兵器研究ではない」という賛意も示された。実際、制度には15年度、109件の応募があり、大学など教育関係機関が半数以上を占めた。16年度は5大学の提案が採択された。
 ここに来て、国内の大学に対する米軍の資金援助が改めて取り沙汰されている。07年以降、米軍が日本の大学や公的研究機関の研究者に投じた研究費の資金提供が少なくとも8億8000万円に上ることが判明。学術会議の議論に影響を与えるとみられる。
 不気味な足音が聞こえる。安倍晋三首相は15年4月、半世紀にわたって堅持した武器輸出三原則を撤廃した。それに先立ち、経団連は三原則の大幅緩和を提言。防衛産業の市場拡大を促している。
 日米防衛協力を念頭に置く特定秘密保護法の施行、三原則の撤廃、集団的自衛権の行使を可能とする安全保障関連法の成立-。安倍首相が言う「普通の国」の輪郭が鮮明になってきた。
 欧米では、民生技術を軍事に取り入れる研究は常識という。いい意味で日本は先進国の中でも特異な国だった。時代の流れでは済まない大きな岐路が目の前に現れてきた。科学者が過去に学んだ「原点」を忘れるべきでない。