受動喫煙の防止強化を図る政府の健康増進法改正案が、壁に突き当たっている。
 厚生労働省は、飲食店を原則禁煙とする罰則付き法案の今国会提出を目指すが、自民党が「厳し過ぎる」と見直しを求めているからだ。
 受動喫煙対策の法規制で努力義務にとどまる日本は、世界の後進国とされる。他人のたばこの煙にさらされることは害悪でしかない。国民の健康を第一に考えるなら、規制強化に踏み出すべきだ。
 厚労省が3月に公表した案は、学校、病院を最も厳しい敷地内禁煙とした。ホテルや飲食店なども原則禁煙だが、喫煙室の設置による分煙を認めた。小規模のバー、スナックは例外とし、業界に一定程度配慮した。周知期間を経て2019年の施行を目指す。
 日本は、「全ての屋内職場・公共の場の禁煙」を求める「たばこ規制枠組み条約」の締約国だ。しかし、世界保健機関(WHO)の評価は最低レベル。改正案が成立したとしても、世界の「先頭集団」には追いつかない。
 WHOは10年、国際オリンピック委員会(IOC)との間で「たばこのない五輪の実現」で合意している。それ以降の五輪・パラリンピック開催国は、全て罰則付き法規制に踏み切った。3年後に東京大会開催を控える日本は、二重の意味で国際公約を果たすべき立場にある。
 反対の急先鋒(せんぽう)は自民党の「たばこ議員連盟」。飲食店の客離れ、たばこの売り上げ減など業界への影響を懸念し「禁煙押しつけ」に反発する。
 喫煙、分煙、禁煙を飲食店側が選んだ上で、表示を義務付ける対案を提示。店と利用者の自由意思に任せ、「日本らしい分煙の形を目指すべきだ」と発想の転換を促す。
 日本人の喫煙率は2割を切っている。吸わない人が大半となる中での規制強化は、多様な意見を聞いて慎重に進めるに越したことはない。
 ただ、屋内禁煙を基本とする厚労省案と議連案は、隔たりが大き過ぎ、意見集約する党厚生労働部会すら開かれていない。党側と厚労省が少人数で協議の場を持つよう、党幹部が間に入って調整する異例の展開となっている。
 一方、先頃来日したWHOの担当者は「部分的な禁煙では受動喫煙を防ぐことはできない」と、日本政府の取り組みに強い期待を寄せた。
 規制強化は世界の要請だが、根拠はそれだけでない。国立がん研究センターは昨年、受動喫煙によって肺がんになるリスクが1.3倍高まるとの解析結果を発表し、病の罹患(りかん)への影響が数値的に示された。救える命がそこにある。
 私たちの社会には、子どもや妊婦、ぜんそく患者など、たばこの煙のない環境がどうしても必要な人たちがいる。規制は国民の健康に直結しているからこそ急がねばならない。実効性のある法改正に向け、後ずさりは許されない。