「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案の審議は、きょうから衆院法務委員会で本格化する。
 東京五輪・パラリンピックの開催を控え、テロ対策に万全を期すための国内法整備と位置付け、成立を急ぐ政府に対し、民進党など野党は「国民の恒常的な監視が強まる」と廃案を目指す。
 適用対象はテロ組織、暴力団、薬物密売グループなど「組織的犯罪集団」に限定し、現場の下見や資金の調達などの「準備行為」を前提とする。過去3度廃案になった法案と比べ要件を厳しくしたが、犯罪の計画段階で合意した全員が処罰される趣旨は変わらない。
 取り扱い方によっては一般市民の人権を脅かしかねない危うさを含む法案である。拙速を排し、国民に分かりやすい審議を尽くしてほしい。
 これまで「成案を得てから十分に説明する」と繰り返してきた金田勝年法相(衆院秋田2区)の答弁内容が注目されている。野党側は「担当閣僚が説明できない法案を成立させるわけにはいかない」と息巻く。大臣答弁の不安定さを突き、法案そのものの問題を露呈させる戦略を取る。
 17日の決算行政監視委員会は前哨戦だった。政府が「テロ等準備罪」の対象犯罪を当初の676から277に減らしたことに関連し、民進党が「複数まとめて数えている。実際は300超では」と指摘。法相は「数え方に一定のルールはない」と答えたが、「ルールがなければ対象は広がりかねない」と、野党につけ込まれる材料を与えた。
 揚げ足を取るような議論とはいえ、この法案の曖昧さの一端を示すやりとりだ。277の対象犯罪を巡っては、保安林区域内でのキノコなどの採取(森林法違反)や、著作権の侵害などテロとの関連が考えにくい項目が多数ある。なぜ対象にしたのか。政府は丁寧に説明する必要がある。
 共同通信社による3月の世論調査によると、改正案への賛成が38.8%、反対は40.0%と拮抗(きっこう)した。テロが世界各地で頻発する中、国内の備えを充実させることに異論のある国民はいないだろう。
 しかし、その見返りに自由な市民運動や政治・言論活動が、公権力側の判断で「組織的犯罪集団」とみなされれば一人一人が監視され、捜査対象になる恐れは拭えない。
 そもそも今回の法整備によって政府が目指すのは、国際組織犯罪防止条約の締結だ。この条約は国際マフィアのマネーロンダリング(資金洗浄)など資金対策が中心で、テロ防止には役立たないという見方もある。
 テロ対策に徹するなら「共謀罪」の焼き直しではなく、テロ限定の法体系にするのが筋だ。目的や効果がはっきりせず、国民の不安だけを増幅させる法案を数の力で押し通すことがあってはならない。