閣僚や幹部人事の遅れで米政権の陣容が定まっていないことなどから、実質協議は見送られたとはいえ、相手が目指すところだけは明確になった、と言える。
 麻生太郎副総理兼財務相とペンス副大統領をトップに、初会合が開かれた日米経済対話のことである。
 共同文書では真っ先に、貿易の「2国間枠組み」を協議していくことが記された。それ以上に、米国の「本音」をさらけだしたのは、ペンス氏の記者会見での発言である。
 「世界中の国と2国間で貿易関係をつくりたい。トランプ大統領はそれを米国の国益だと思っている。将来、日米自由貿易協定(FTA)交渉を始める可能性がある」
 そもそも、経済対話は2月の日米首脳会談で安倍晋三首相が持ち出したものだ。
 その狙いは、インフラやエネルギー分野で協力することで米国の雇用創出や日本企業の受注拡大を通じた「相互利益」を前面に打ち出すことによって、「米国第一」を掲げるトランプ氏が問題視する対日貿易赤字から、その目をそらすことにあった。
 だがそのもくろみは吹き飛んだ。相互利益論は後景に去り、「避けたかった」(経済官庁幹部)関税引き下げや非関税障壁の撤廃につながるFTAがせり出してきた形だ。
 対日貿易赤字の削減に向けて交渉入りを求め、「不公平」と批判してきた農業や自動車の市場開放を迫る。そうした狙いが透けて見える。
 だが、農業、特にコメや牛・豚肉を含む重要5農産物について、大幅な市場開放となれば、産業としての農業だけでなく、地方にとってその打撃は計り知れない。守るべき不変の「聖域」である。
 日米FTAについて、安倍首相は国会で「国益になるならいい。ならないなら(交渉を)進めないのは明確だ」と曖昧な答弁に終始。一方で、重要農産物については「守るべきは守っていかないといけない」と言明している。
 次回の経済対話は米国で年内に開かれるという。これからどう展開するのか、予断は許さないものの、米国の出方を探りつつ、FTAにどう対応するかを含め交渉戦略を練り直すべきときではないか。
 ただ、留意すべきは、安倍政権がいまだにこだわる環太平洋連携協定(TPP)について、離脱した米国は「過去のもの」(ペンス氏)と言い切っていることだ。
 TPPは12カ国による多国間の枠組みとはいえ、その経済規模の大きさから実質は日米FTAと言われてきた。その協定をご破算にした米国が新たにFTAを持ち出してくるのであれば、それは仕切り直しにほかならない。
 仮に交渉入りするにしろ、コメの輸入枠や牛・豚肉の低関税化を含むTPPの合意とは無関係。新たな交渉にはゼロベースで臨むべきだ。そう注文しておかねばならない。