安倍晋三首相と親密な友人が理事長を務める学校法人「加計(かけ)学園」(岡山市)の獣医学部新設を巡る記録文書問題は、疑念が一段と深まったと言わざるをえない。
 学部新設計画に携わった文部科学省の前川喜平前事務次官がきのう記者会見し、文書について「確実に存在していた。あるものをないとは言えない」と語った。
 前川氏は、文科省の再就職あっせん問題で今年1月に引責辞任したとはいえ、「公正、公平であるべき行政のあり方がゆがめられた」とまで言い切った元官僚トップの証言は極めて重い。
 政府は当初から「怪文書の類いだ」などと、文書の存在や内容を否定した。文科省も内部調査で確認できなかったとしてきたが、実際は限られた時間内で通り一遍のような調査で終わっている。
 こうした具体的な証言が出てきた以上、職員個人のパソコンファイルまで対象を広げるなど、組織を挙げて厳正な調査に乗り出すべきだ。
 文書には「総理のご意向だと聞いている」「官邸の最高レベルが言っている」など首相周辺の「圧力」とも取れる記載があり、学部新設の手続きを急ぐよう促す内容になっている。内閣府が文科省に求めたとされる。
 前川氏は「文書は担当の専門教育課で作成され、幹部の間で共有されていた」と説明。首相周辺の意向をうかがわせる記載について「総理か官房長官のどちらかと思った。文科省として苦慮し、文科相からも懸念が示された」と明かした。
 本人が国会の証人喚問について要請があれば応じるとしているのだから、忖度(そんたく)させるような働き掛けがあったかどうか、直接ただすべきだ。当然、一方の当事者である内閣府の関係者も、国会の場に呼ぶ必要がある。
 加計学園の獣医学部新設を巡っては、安倍政権の進める国家戦略特区制度によって規制緩和の対象となり、国内で約50年ぶりとなる開設に向け実現への道が開けた。異例とも言える進展にいったい何が働いたのか。
 前川氏は「特区の議論の対象は加計学園と認識していた。関係者の暗黙の共通理解だった」と認めた。学園は来年4月開設を目指し、着々と準備を進めている。
 学部の設置認可を担当する文科省が、結局「加計ありき」の計画をのむしかなくなったとすれば、「総理の意向」が効いたと考えるのが自然ではないか。
 安倍首相は、学部新設について「理事長からの相談も、圧力をかけたこともない」と関与を否定しているが、文書問題の発覚後は口を閉ざしている。
 このまま「知らぬ存ぜぬ」の姿勢を貫き続ければ、政治不信に拍車が掛かるのは明らかだ。安倍首相自らの言葉で説明しなければならない。