「安倍1強政治」のゆがみは払拭(ふっしょく)されるどころか、その疑いは深まる一方だ。
 安倍晋三首相と親しい友人が理事長を務める「加計学園」(岡山市)が、国家戦略特区制度を活用し愛媛県今治市に岡山理科大獣医学部を新設する問題である。
 「行政がゆがめられた」と文部科学省の前川喜平前事務次官が、政府相手の告発とも言える証言をして10日余り。 その発端となった「総理の意向だ」などと記載された文書の存在を、同省の複数の現役職員がきのう認め、「省内で共有していた」と証言した。文書の信ぴょう性は一段と高まったと言っていい。
 これまで松野博一文科相は5日の衆院決算行政監視委員会で「文書などの存否の確認はしない」と再調査を拒否。首相も「文科相の言った通り」と同意している。
 政府に誠実に取り組もうという姿勢は全く見られない。それどころか、都合の悪いものにふたをし、何もなかったことにしようとしているのではないか。これでは隠蔽(いんぺい)と言われても仕方あるまい。
 安倍首相は、獣医学部新設への関与について「特区申請の分科会が議論した。私が介入する余地はなかった」と改めて否定した。何もやましいところがないのなら、文書の確認など調査を指示して当然だ。簡単なことだろう。
 一方で首相は「この問題の本質は、岩盤規制をどう突破したかだ」と繰り返し述べた。首相の強い指導力で新しい政策を断行する。抵抗勢力の摩擦を振り払う腕力や、スピード感も必要だったろう。
 ただ、その出発点や決定の過程で公平、公正さを欠く手続きが、行政上なされたのだとしたら、国民に対する背信行為と言うほかはあるまい。問題の核心はそこにある。
 「加計ありき」で特区制度が進んだのではないかとされる論拠の一つは、応募要件が昨年11月の段階で「広域的に獣医学部が存在しない地域」と枠がはめられたことだ。これにより空白区だった四国に開設を目指す加計学園だけが2カ月後に応募できた。
 安倍首相は「獣医師会から要望があり1校にした」と答弁したが、「広域」要件について明快な説明はなかった。獣医師の需要についても疑問の声が上がっている。
 多くの重要法案を抱える今国会は残る会期が10日余り。安倍政権はこの問題に真剣に向き合わず、時間を空費させてきたのではないか。その責任は極めて重い。
 側近や官僚に「忖度(そんたく)」があって行政手続きがゆがめられたのだとしたら、それを正すのが行政府の長の責任だ。ましてや自分に降りかかった問題である。
 野党が次々指摘する疑念の解明に及び腰の姿勢をこのまま続けるならば、国民に背を向けられることを覚悟すべきだ。そう指摘しておかねばなるまい。