天皇陛下の退位を実現する特例法がきのう、成立した。これで光格天皇以来、約200年ぶりの退位に道が開かれ、近代では天皇と上皇が初めて併存する新時代を迎える。
 とはいえ、ここまでに至る過程を見れば、退位を急ぐあまり、国民が脇に置かれたまま国会や有識者会議で論議が進められ、慌ただしく幕が引かれたとの思いを強くする。
 衆参両院で審議に費やされたのは各1日。国民に開かれた初の法案審議の場であっただけに、皇室の諸課題についてもっと突っ込んだ議論があってしかるべきだった。
 国権の最高機関である国会の総意と言いながら、議員立法ではなく内閣提出法案だったことにも違和感がある。
 皇位の継承は憲法で皇室典範の定めによるとされ、典範は天皇の終身在位が前提だ。憲法との整合性や皇位継承の安定を考えれば、典範の本則に退位規定を盛り込むのが道理である。世論調査でも国民の大多数が支持している。
 結局は与野党の妥協の産物だった。象徴天皇制は憲法に「国民の総意に基づく」と規定されているにもかかわらず、その水面下の駆け引きは不透明で分かりにくかった。
 「玉虫色」の余地があってはならない法律なのに、曖昧さが残った。とても「後顧の憂いなし」とは言い難い。
 超高齢化社会にあって将来の天皇が退位する場合、どのように対処していくのか。
 菅義偉官房長官は、特例法のプロセスや基本的な考え方を捉えて「先例になり得る」と答弁。と同時に「改めて法形式について議論することは考えていない」と、恒久制度化を否定した。その都度特例法で、ということだろう。
 そもそも「一代限りの特例が先例」という理屈付けは矛盾をはらみ、つじつま合わせの側面は否めない。根拠法なくして解釈だけで、どうして将来の国会、内閣の判断を縛ることができようか。
 付帯決議で政府に検討を求めた女性宮家創設も曖昧で、先送りの懸念が拭えない。
 民進党は検討結果の国会報告について「法案成立後1年を目途とすべきだ」と求めたが、菅官房長官は「国民のコンセンサスを得るために十分な分析、検討と慎重な手続きが必要だ」と明言を避けた。
 政府・自民党では皇室典範に手を付けず、女性皇族が結婚後民間人になっても公務を継続する案が浮上しているという。退位と同様、安倍政権が典範改正に二の足を踏むのは、支持基盤である保守層に配慮しているのは明らかだ。
 象徴天皇の意義を巡る論議が深まらなかったのも残念だった。昨年8月の天皇陛下のお気持ち表明は、今後の象徴天皇の在り方を踏まえた問題提起でもあったはずだったが、先送りされた格好だ。
 代替わりしても避けて通れない問いである。国民統合の「象徴」である意味を、新天皇とともに考えていきたい。