沈黙の条文は、本当に起動することになるのだろうか。「町村は議会を置かず、総会を設けることができる」とした地方自治法94条だ。
 人口約400人、議員6人の高知県大川村が議会を廃止し、予算案や条例案を有権者が直接審議する総会の設置に向け、検討を本格化させるという。「議員のなり手不足」がその理由となれば、東北も人ごとではいられまい。
 東北6県の227市町村で直近の4年間にあった議員選挙を見ると、補欠選挙を除いても28の市町村選挙が無投票だった。候補者が定数をかろうじて1、2上回っただけという議員選挙はさらに多い。
 議員職が敬遠される理由は、身分の不安定さ、報酬の少なさなどさまざまあろうが、大川村は議員不足の原因を人口減少に求めている。
 国も同意見のようだ。高市早苗総務相は「著しく人口が少ない町村では、町村総会も選択肢になり得る」と述べて早速、事務方に検討を指示した。あまりにも拙速な判断と言わざるを得ない。
 自治法は94条に続いて95条で「町村総会は議会の規定を準用する」と明記している。
 兼職・兼業の禁止を準用すれば、町村職員は総会に参加できないし、町村の業務を請け負う事業者も参加できない。滞りない事務執行のために首長の専決処分を大幅拡充すれば、承認にはやはり恒常的に総会を開く必要がある。
 ほかにも議会の規定は数多い。「準用」条文の壁を突破して町村総会の設置が可能なのは本来、有権者数十人程度の極めて小さい自治体に限られる。1950年代に村総会を設置した東京都の離島にあった旧宇津木村が、まさにこのケースに当たった。
 恐らく総務省は特別法の制定で乗り切るつもりだろうが、議員不足を解決する手だてとしての町村総会設置は、本来的に無理筋なのだ。
 さらに危惧されるのは、直接民主制を導入することで住民による自治を巡る議論の場が失われてしまう事態だ。
 一見、直接民主制で討論が活性化するように思えるが、数百人が限られた時間で議案を採決しなければならず、町村総会に議論の深化を期待するのは実は現実的でない。
 大川村は、夜間、休日議会の開催を検討するなど議会を持続させるための手を尽くしてきたのだろうか。総会設置の検討を寝耳に水と驚く村民を見るにつけ、住民と真剣に話し合ってきたようにはとても思えない。
 地方自治の原理である二元代表制を放棄してまで町村総会を設置する意義があるのかどうか、一度立ち止まってよくよく考えてほしい。
 大川村を含めて現在、町村総会設置の条文の趣旨に沿うような極小自治体はないだろうし、自治法94条は、自治の意欲を失った地域を助けるための起死回生のウルトラCでもないはずだ。