多くの被害者の苦しみを和らげる着実な一歩といえる。性犯罪の規定を大幅に見直す改正刑法が成立した。
 被害者が女性に限定されていた強姦(ごうかん)罪を廃止し、加害者、被害者の性差を問わない「強制性交等罪」に変更する。法定刑の下限は懲役3年から5年に引き上げた。明治時代の刑法制定以来の大改革だ。
 人権を重視し、性差別のない社会を目指す時代にふさわしい法整備は、長年の課題だった。厳罰化を犯罪抑止につなげるのはもちろん、被害者支援など関連対策の充実を進める契機とすべきである。
 今回の改正では、強姦罪などで加害者を起訴する際、被害者の告訴が必要だった「親告罪」規定について、実情を踏まえて削除した。
 「犯罪白書」によると、強姦の認知件数(2015年)は1167件だったのに対し、起訴は453件。内閣府の調査では、「無理やり性交された」という女性117人に対応を聞いたところ、「警察に連絡・相談した」は4.3%。「誰にも相談しなかった」が67.5%に上った。
 裁判まで行き着かないどころか、表沙汰にもなりにくいのが性犯罪の実態だ。多くの被害者が恥辱や罪悪感を抱え込み、泣き寝入りしたり孤立に追い込まれたりしている。
 非親告罪化は、告訴するかどうかの判断を迫られる被害者の心理的負担を軽減する。加害者側からの示談交渉も容易に進まなくなるはずだ。
 加害者は厳正に処罰されることになるが、被害者は逆に法廷などで忌まわしい体験と何度も向き合わねばならなくなるかもしれない。捜査や公判の過程では、被害者のプライバシー保護に細心の注意が払われなければならない。
 今後の課題も少なくない。強姦罪の成立要件だった「暴行・脅迫を用いる」という規定を巡る問題である。被害者支援団体の中では「脅された証明が難しい」などと撤廃を求める議論があった。
 改正法ではこの要件は残った。その上で、父母などが立場を利用し18歳未満の子どもに性的な行為をした場合に限り、暴行や脅迫がなくても処罰できる規定を設けた。
 親に逆らえず、子どもが言いなりになるしかない家庭内での性的虐待の深刻さに配慮したが、「同意のない性行為は全てレイプと認めてほしい」と言う支援者は依然多い。
 付則には、施行3年後の見直し規定が盛り込まれた。改正後の経過を見ながら柔軟に対応してほしい。
 性暴力は人間の尊厳を冒す最も卑劣な犯罪だ。改正法の精神を踏まえ、何よりも被害者の人権と生活の平穏が保証されなければならない。
 二次被害を防止するためにも、被害者が落ち着いた中で声を上げやすい環境をつくる公的支援は急を要す。加害者の再犯防止プログラムや、偏見の是正などにも総力を挙げて取り組むべきだ。