改憲勢力が衆参両院で、発議に必要な3分の2を占めているうちに、ということなのだろうか。安倍晋三首相(自民党総裁)が、憲法改正に前のめりになってきている。
 秋に想定される臨時国会が終わる前に、衆参両院の憲法審査会に自民党改憲案を示し、議論を進めていく意向を明らかにした。「年内」という自民党案提出の時期を明示したのは初めてだ。
 これまでは2020年の改正憲法施行を目指すとし、年内に自民党案をまとめる方針を示していた。ギアを1段上げて日程を前倒しすることで、国会での改憲議論を加速させる狙いがあるのだろう。
 安倍首相の提案は戦争放棄の9条1項、戦力不保持などの2項を残しつつ、自衛隊の存在を明文で書き込む「加憲」である。2項を削除して「国防軍」創設を盛り込んだ12年の党改憲草案にはなかった新しい考え方だ。
 それだけに自民党内にはさざ波が立つ。「党内で一度も議論していない」と正面切って批判してきた石破茂元幹事長だけでなく、ここにきて安倍内閣の支持率急落を見計らったかのように、反論が続出している。
 安倍首相の発言はこうした慎重派へのいらだち、焦りの表れであり、募る危機感の裏返しでもあろう。
 そもそも政府・自民党は自衛隊合憲の解釈に立脚しているのだから、憲法に書き込む必要はないはずだ。緊急性も乏しい。あえて加憲に踏み切ろうとするのはなぜなのか。
 安倍首相は「憲法学者の7、8割が違憲とする状況を変えていくのは私たちの世代の責任」と訴えるが、唐突に宗旨変えする姿勢を見れば、額面通りには受け取れない。
 1項、2項の制約を事実上打ち消し、自衛隊の役割を拡大させようとしているという懸念は依然として拭えない。
 持論を封印してまで改憲の「出口」を優先するようなやり方は、安倍首相のレガシー(政治的遺産)づくりのためのように映る。
 さらには安倍首相の知人が理事長を務める学校法人「加計(かけ)学園」問題で苦境にある局面の打開策ではないか、という見方も出ている。
 現に民進党の野田佳彦幹事長は「憲法という大事な議論をするから、他の問題で邪魔するなということではないか。加計疑惑隠しに見える」と反発している。
 これでは改憲のコンセンサスどころか、論議のテーブルに着くための前提となる信頼関係が壊れている状況と言わざるを得ない。初めに日程ありきでしゃにむに突き進む以前に、加計問題の疑念に丁寧に答えることが先決だろう。
 安倍首相の熱情とは裏腹に、国民的な議論が置き去りにされている感が強い。国論が二分されるテーマである。異論に耳を傾けず、「俺に付いてこい」という独り善がりでは、いずれ失速を招く。