津波対策を怠り、福島第1原発事故を防げなかったとして、業務上過失致死傷罪で強制起訴された東京電力元会長の勝俣恒久被告(77)、ともに元副社長で原発・立地担当だった武黒一郎被告(71)、武藤栄被告(67)の旧経営陣3人の初公判がきのう、東京地裁であった。
 未曽有の原子力災害でありながら、事故の正確な経緯や詳しいメカニズムはいまだに明らかになっていない。「人災」だったのかどうかを含めて、刑事裁判の場で過酷事故の真相に迫ってほしい。
 起訴状などによると、被告らは大津波の危険性を予測できたにもかかわらず対策を怠り、事故を防げなかった。その結果、福島市大熊町の双葉病院の入院患者に避難を余儀なくさせ、44人を死亡させた、としている。
 勝俣被告は罪状認否で「事故を予見するのは不可能だった」と無罪を主張した。他の2人も起訴内容を否定した。東日本大震災で起きた巨大津波は「想定外」との立場だ。
 検事役の指定弁護士は冒頭陳述で、津波の予見可能性について「3人は原発敷地を超す津波を予見できた。防潮堤建設や設備の高台移転などの措置を講じるまで運転を停止すべきだった」と指摘した。
 東電は、子会社が2008年に試算した最大15.7メートルの津波が襲うとの予測データを把握していた。防潮堤計画が内部で検討されたことも民事訴訟などで分かっている。
 試算や対策案が社内でどこまで共有されていたか。防潮堤建設を先送りした判断はどのように決まったのか。その経過を明らかにすることは3人の刑事責任だけでなく、東電のリスク管理や原発事業者としての適格性を見極めることにつながる。
 一方、弁護側は「3被告とも津波の予見可能性も事故の回避義務も認められない」とした上で、「最大15.7メートルの津波が襲うという試算通りに防潮堤を設置しても、実際は試算を上回る規模だった。事故は防げなかった」と反論し、全面対決の姿勢を見せた。
 事故を巡っては、民事の集団訴訟が全国で約30件起こされている。今年3月の前橋地裁判決は「津波予見は可能で事故を防げた」とする初の司法判断を示し、東電と国の賠償責任を認めた。
 厳格な事実認定が行われる刑事裁判とは異なるが、強制起訴に至る根拠は前橋地裁の判決と同様に08年の試算を基にしており、東京地裁の判断が注目される。
 福島では、今も多くの避難者が古里を離れ、県内外での生活を強いられている。いわれのない偏見でいじめに遭う子どもたちも少なくない。
 なぜ事故を防げなかったのか。過ちを繰り返さないために何が必要か。
 今後の教訓にするためにも、裁判に関わる全ての人が、原因の検証に真摯(しんし)に向き合わなければならない。