日本と欧州連合(EU)が連携し自由貿易推進の旗を高く掲げて、トランプ米大統領の誕生に象徴される世界の保護主義的な流れに歯止めをかける。そのことは、意義深いことに違いない。
 日欧経済連携協定(EPA)大枠合意のことである。
 発効すれば、世界の国内総生産(GDP)の約3割を占める巨大経済圏が誕生する。双方の成長のみならず、世界経済の安定にも寄与しよう。
 だが、手放しで歓迎はできない。日本製乗用車や家電といった工業製品にかかる関税の即時、ないし段階的廃止が実現するにしても、高品質なEUの農林産物にも門戸が大きく開かれ安価で流入しかねないため、国内生産者らに不安が広がっているからだ。
 4年を超す交渉でありながら、環太平洋連携協定(TPP)に隠れる形で進められ、しかも政府から交渉に関する情報の提供が一切なかったことが、その不安をあおる。
 なぜ、このような合意に至ったのか。合意によって、どの分野にどんなプラス効果があり、農林業にはどんなマイナスの影響が及ぶのか。交渉の経緯と、合意内容に基づく影響について、政府はまず国民に丁寧に説明するべきだ。その上で対策を議論したい。
 それにしても、急な決着だった。何度も合意目標の時期を延期しておきながら、今回は安倍晋三首相が「何としても大枠合意ができるよう最終調整を急がせる」と講演で語ってから、わずか2週間だ。
 にわか合意の背景としては「加計(かけ)学園」問題や強引な国会運営で支持率が急落した安倍政権が、失地回復へ経済分野での成果を急いだのではないかとの指摘がある。「本場のワインもチーズも安くなる」は消費者受けしよう。
 いずれにしても、急展開した交渉の経緯はつまびらかにされねばならない。合意を急ぐあまり、国益を損なうような安易な妥協や譲歩はなかったか、精査する必要がある。
 中でも、最後までもつれたチーズについて日本は輸入枠を設け、その枠を徐々に広げ関税も最終的にはゼロに、と最大限の譲歩をした形だ。
 輸入増の影響を直接受けるのは、生乳の大半を加工用に回す北海道の酪農家らが中心という。だが、それで生乳がだぶつき値崩れすれば、安値が飲用中心の東北の酪農家らにも波及する恐れがある。
 悪影響の懸念は豚肉や木材にもある。特に中高層建築も可能な直交集成板(CLT)の増産を含め、林業の成長産業化は緒に就いたばかり。競争力の高いEU産集成材の関税撤廃は、そうした取り組みに冷や水を浴びせかねない。
 影響について、しっかりと吟味せねばならない。
 TPPに続く秘密交渉による合意であり、「車を売るため、また農家らを犠牲にするのか」との批判がくすぶる。そうした疑念・不安と、政府は真摯(しんし)に向き合うべきだ。