8月3日にも実施される内閣改造を前に、にわかに留任の署名運動が起きている閣僚がいる。
 塩崎恭久厚生労働相である。受動喫煙の対策強化を盛り込んだ健康増進法改正案をまとめるため通常国会中、舞台裏で奔走した。
 結局、自民党と折り合わず法案の提出はできなかったが、党側の圧力に屈せず筋を通した。その姿勢が日本禁煙学会や賛同する市民から評価され、続投を期待されている。
 塩崎氏は、安倍晋三首相の方針に沿い政策を実行する立場にある。大臣の交代で果たすべき職務が全うされないことがあってはならない。
 今回の対立は、世界標準の規制策に少しでも近づきたい厚労省と、飲食業界への影響に配慮する自民党が互いに自案を譲らず、話がこじれた。
 交渉が行き詰まった局面で首相が調整に乗り出すことはなかった。「国民の健康」と「業界の安定」とをはかりに掛け、首相自身が決められなかったからだろう。
 政府案は、原則「屋内禁煙」で、小規模のバーなどを例外にした。党案の例外規定は、客室など150平方メートル以下の飲食店は店頭に「喫煙」「分煙」などの表示をすれば喫煙できる。これを東京都に当てはめると「例外」の店の方がはるかに多くなる。これでは健康被害は防げない。
 政府は秋の臨時国会で仕切り直しする腹積もりだが、首相は「(塩崎氏に)責任を持ってまとめてもらいたい」と通常国会の最終盤で答弁している。大臣任せではなく、今度は首相の「本気度」が問われる段階だ。
 日本人の喫煙率は2016年に20%を切った。逆風の中でも年2兆円規模の税収を確保するたばこ産業界の総合力は絶大だ。明治期の戦費調達に端を発した国家的事業が命脈を保っている。究極の岩盤構造と言えよう。
 たばこ利権と一線を画す厚労省が、風穴を開けようと奮闘しているのである。首相は行政府の長として「国民の健康」を第一に考え、バックアップすべきではないか。
 まして19年のラグビーワールドカップ、20年東京五輪・パラリンピックが迫る。「たばこのない大会」の実現は、日本が引くに引けない国際公約でもある。この機を逃すと国内の受動喫煙対策は永遠に進まないかもしれない。
 気に留めておきたいのは東京都の対応だ。都議選で小池百合子知事は「都民ファーストの会」の公約で受動喫煙防止条例案の制定を掲げ、各党も追随した。原則「屋内禁煙」で、罰則付きの内容は政府案に近いとされる。
 「国が決められないなら都がやる」と言わんばかりの小池氏の戦略に乗り、国の責任を放棄するなら、それこそ世界の「笑いもの」だろう。
 塩崎氏の処遇はさて置き、受動喫煙の解決に向けて首相は主体性を発揮すべきだ。