求心力低下の象徴と言っていいだろう。安倍晋三首相(自民党総裁)が先頭に立って旗を振ってきた憲法改正について、軌道修正を余儀なくされた。「黄信号」がともったのではないか。
 「議論を深めるべきだと一石を投じた。スケジュールありきではない。党主導で進めてもらいたい」
 安倍首相が内閣改造後の記者会見で、自ら提唱した改正憲法の2020年施行目標や、秋の臨時国会での自民党改憲案提示について固執しない考えを示した。事実上のスケジュール先送りだろう。
 さらにテレビ番組では「憲法は国民投票で決められる。国会だけで通してしまう法律とは性格が違う」と述べ、慎重な姿勢を強くにじませた。
 都議選で歴史的惨敗を喫し、内閣支持率が急落する中、このまま改憲に前のめりになり、数の力でごり押ししていけば、国民の反発を招くと最終的に判断したのだろう。
 あまりにも拙速すぎて、国民の不信感を招いたのは当然の帰結だ。共同通信の3、4日の世論調査でも、安倍首相の下での改憲に反対する人は53.4%で、賛成の34.5%を大きく上回った。
 20年に施行しなければならない必然性はなく、首相の自己都合以外の何物でもない。「初めに改憲ありき」という側面は拭えず、レガシー(政治的遺産)にしたいのでは、との疑念が今も付きまとう。
 安倍首相が改憲の対象として唱えたのは、9条である。「戦争放棄」「戦力の不保持」を定めた1項、2項は残しつつ、自衛隊の存在を明記するという「加憲」の考え方。学者が自衛隊を違憲と指摘する「鎖」から解き放ちたいというのがその理由だ。
 ただ、大半の国民が自衛隊の存在を認めているのに、改憲の必要があるのかという根本的な疑問が残る。説得力に欠ける、と言わざるを得ない。「自衛隊員が気の毒」というのでは感情論だ。
 2項を削除して「国防軍」創設を盛り込んだ12年の党改憲草案とは相いれず、自民党内でも異論が少なくない。実際、党憲法改正推進本部では「議論百出」の様相で、論議は生煮えのままのようだ。
 安倍首相の改憲を巡る発言は振幅、ぶれが激しい。政局を見極めて戦略的にメッセージを使い分けている節がある。そもそも改憲を諦めたわけではない。断念はコアな保守層の支持基盤を失うことにつながってしまうからだ。
 当面は経済に力を入れることで支持率を回復させていき、改憲に向けてのシナリオを練り直す戦略を描いていることだろう。当然、衆院解散の時期とも絡んでくる。
 改憲の機運が一気にしぼんだ現状を見れば、議論が熟していないことの裏返しだ。早急に変えなければならない不備が現憲法にあるのか。まだまだ国民の理解を得られる根源的な議論が足りない。