「戦争は、戯(ざ)れ事じゃないんだ」-。俳界の最重鎮、金子兜太さん(97)は太平洋戦争の体験をこう言い表した。
 終戦を南太平洋のトラック諸島で迎えた。海軍主計中尉として多くの部下を飢えで亡くし、その無念さを引き揚げの駆逐艦の上で詠んでいる。<水脈(みお)の果て炎天の墓碑を置きて去る>
 忘れられぬ惨劇の記憶が呼び覚まされることだろう。きょうは72年目の「終戦記念日」。300万人余の戦没者を悼み、平和と自由の尊さをかみしめる日である。
 「戦後生まれ」の人口は3年前に8割を超えた。NHKの最近の世論調査では18、19歳の14%が、8月15日が戦争が終わった日だということを「知らない」と答えた。風化は着実に進んでいる。
 戦争を体験した人がいなくなる社会は、遠からず訪れよう。その先には何があるのか。不安が拭えない。
 金子さんはここ数年の政治の雲行きを見るにつけ、あの戦争に向かう時代を想起するという。
 安倍政権はことし6月、参議院の委員会採決を省く「禁じ手」まで使って、「共謀罪」法(改正組織犯罪処罰法)を成立させた。2013年の特定秘密保護法、15年の安全保障関連法に続き、数の力で押し通した。
 戦前、思想弾圧に利用された「治安維持法」に重ねる懸念の声があった。「国民を監視社会に閉じ込め、内心の自由に国家権力が踏み込む恐れがある」と、野党や多くの言論人らが反対したが、政権はお構いなしだった。
 加えて安倍晋三首相は憲法記念日に、改憲案の20年施行を提唱した。スケジュールを軌道修正したものの、旗そのものを降ろしていない。安倍首相が脱却を唱えた「戦後レジーム(体制)」の象徴である、憲法9条に手を付けることが目的のように映る。
 日本が戦争に巻き込まれなかったのは、9条のおかげであることもまた、紛れもない事実だ。戦争の悲惨な歴史や憲法の精神を次世代にどう伝え、国民的議論に結び付けていくのか。アジア諸国を侵略した歴史を持つ日本人が背負う「十字架」である。
 日本が置かれた国際情勢に目を転じれば、平和はまさに危機に直面しているかに見える。全ての国民が沈思し、「不戦の誓い」を胸に刻むきょうの日も、自衛隊は北朝鮮のミサイル発射に備え、厳戒態勢を敷く。
 しかし、武力だけで平和は達成できないことは、歴史が証明している。大戦の犠牲の大きさを受け止め、できる限りの英知を結集して乗り越えるしかあるまい。
 金子さんは「戦争体験を若い人たちに伝えるのが今後の私の仕事」と言う。一人一人が声を上げ、戦争体験者の話に耳を傾け、行動によって未来への責任を果たしていかねばならない。