近年、首長に多額の損害賠償を求める住民訴訟や司法判断が各地で相次いでいる。
 東京都国立市では、街の景観保全を公約に掲げて高層マンションの建築を規制した元市長が、損害賠償訴訟を起こされ、約3100万円を支払う事態に追い込まれた。「これでは独自施策を展開しようという首長が萎縮する」と元市長の嘆きはもっともだ。
 だが、その一方には議会と結託して住民訴訟による賠償請求を免れようとする首長が少なからずいるのもまた事実だ。主権者である住民を自治の枠外に追いやろうとする行為が横行している。
 自治体の公金支出に違法の疑いがあると判断した場合、住民は誰でも裁判所に訴えることができる。ただし賠償請求権は自治体にあるため、訴えは首長個人に直接ではなく、自治体が首長に賠償請求するよう求める形となる。
 従って自治体議会が債権放棄を議決してしまえば、首長は賠償責任を免れるのだ。たとえ係争中であっても債権放棄が議決されると裁判所は、訴訟の前提が崩れたとして公金支出の違法性を判断しないまま住民の訴えを退ける。
 首長が議会に多数派を形成したい理由の一つが、ここにある。
 政策に重大な誤りや不正があれば、自治体経営を担う首長が責めを負うのは当然のことだ。ここで日常的に行政執行を監視する議会が執行責任に免罪符を与えてしまっては、自治がモラルハザード(倫理観の欠如)を来す。
 こうした首長と議会の癒着を裁ち切り、住民訴訟制度の形骸化に歯止めをかけようと、先の国会は地方自治法を改正した。議会が首長の債権放棄を議決する際は、事前に監査委員の意見を聞かなければならないという内容だ。
 独立性の高い監査委員による公正な判断を前提にした改正ではある。ならば果たして改正自治法は、期待通りの効果を機能するのだろうか。
 係争中の債権放棄議決が問題の根源なのだから、単に議決を認めないとする方が簡潔で有効だろう。実際、総務省が2015年に示した見直し案は、係争中の議決を禁じる内容だったはずだ。
 適当な人材が見当たらない地方都市では、監査委員に役所OBを起用するケースも少なくない。これでは首長の立場を忖度(そんたく)した監査意見の表明がないとは言えまい。そもそも、議会が監査委員の意見を無視して議決する事態も考えられよう。
 一方で改正自治法は国立市のような事例を勘案し、首長に「重大な過失がない」と裁判所が判断した場合は、賠償額に上限を設けることができるとした。首長の政策裁量権を保護するためなら、これで十分だった。
 首長と議会のもたれ合い構造に監査委員まで誘い込みかねない見直しは、本当に「改正」と言えるのか。