原子力規制委員会は安全のための議論を全うしたのかどうか、疑問が拭えない。
 再稼働を目指す東京電力柏崎刈羽原発6、7号機(新潟県)が、規制委の安全審査に合格する見通しになった。
 小早川智明社長はきのう、事業者としての「適格性」容認の条件だった「安全文化の確立」について、2基の保安規定に明記すると確約した。規制委は合格証に当たる審査書案を10月4日にも了承する。
 審査を始めた2013年当時から規制委は「優先すべきは福島第1原発の問題解決」と言い続けてきた。柏崎刈羽の技術的審査に加え、福島での取り組みをにらみ、全体の適格性を見極めるという姿勢は筋が通っていた。
 しかし、4年を経過した今月になって、従来の厳格な対応が一変。規制委は、「福島第1の廃炉をやりきる」などとした東電側の決意表明を評価し、「適格性はある」と信認の方向に転じた。
 経営陣らの決意と現状の適格性の評価とは別のものだろう。保安規定への記載にしても、どれだけ安全確保に実効性があるかは明確でない。
 東電は未曽有の事故を起こしたが、詳細な原因は解明されていない。しかも廃炉の道筋は手探り状態だ。今なお県外への避難者は3万数千人に上り、約30件もの集団訴訟を起こされている。
 こんな状況で東電に他の原発を動かす資格、能力があるとは信じ難く、場当たり的な方針転換に映る。2基は福島第1原発と同じ沸騰水型原子炉。安全への国民の懸念は残ったのではないか。
 今年は審査終盤に入ってのトラブルも目立った。柏崎刈羽の免震重要棟の耐震性不足を把握しながら何年も事実を隠していたことが2月に発覚。7月には、放射性物質トリチウムが残留する処理水の海洋放出方針を巡る会長発言で、釈明に追われた。
 規制委はその都度「審査は進められない」「住民に向き合っていない」と指摘。経営陣を呼び「主体性のない事業者に再稼働の資格はない」と一喝した。その厳しさは、粘り強く安全文化を醸成していくためではなかったのか。
 柏崎刈羽は、東北電力女川2号機(宮城県女川町、石巻市)など、後に続く同じ沸騰水型のモデルとして優先して審査された。日程的に先を急いだ感は否めない。
 田中俊一委員長の任期中に合格の道筋を付けたかったという内輪の事情もささやかれるが、もし事実なら原子力行政の信頼性も問われよう。
 たとえ合格しても再稼働には地元の同意が不可欠だ。米山隆一新潟県知事は「福島の検証が終わるまで(再稼働を)認めるつもりはない」と語っている。住民本位のぶれない判断こそ、立地自治体の長に最も求められる。
 あす就任する更田豊志新委員長は、適格性の根拠を真っ先に説明する責務がある。