「なぜ、この時期の解散なのか」-。約3年前、安倍晋三首相が「消費税増税先送り」を大義名分に、突然踏み切った衆院解散に対して、東日本大震災の被災者から上がった切実な声である。
 当時、安倍首相らが約束した「復興の加速」はこの間、被災地に何をもたらしたのか。政治の恩恵が感じられないまま、またも降って湧いた選挙が始まる。被災地では置き去りにされる懸念が高まる一方だ。
 被災地の生活と経済の観点から、衆院選に問いたい。
 人口減と高齢化が急速に進む被災地の暮らしは好転の兆しが見えない。岩手、宮城、福島3県の災害公営住宅は貧困の影すら差す。入居世帯の生活保護受給割合は、各県の平均を大きく上回る。家賃は特別低減措置があるものの、入居から6年目以降、段階的に引き上げられる。
 宮城県内の災害公営住宅の孤独死は今年3月末時点で43人に達した。2016年に15人だった死者数は、今年1~3月だけで14人に。発生から22年が過ぎた阪神大震災の被災地は、孤独死が1000人を超え、今なお増え続ける。
 被災地で、「負のスパイラル」が始まっている。経済的困窮と希薄なコミュニティーは、被災者を精神的に追い詰める。支援や住民間の交流が盛んだったプレハブ仮設住宅に「帰りたい」と語る被災者の嘆きを、政治はどう受け止めるのだろう。
 経済政策「アベノミクス」は、被災地とほぼ無縁だった。前回衆院選は与党が圧勝し、首相は「景気回復の温かい風を全国津々浦々に届ける」と勝利宣言した。現状はどうか。目の前にあるのは東京と地方の格差、大企業と中小零細企業の景況感の隔絶だ。
 アベノミクスは金融緩和で市場に出回るお金の量を増やし、企業の設備投資や個人消費を促す政策だ。大企業を中心に収益は上向くが、東北の中小零細企業は復興需要の減速の真っただ中にいる。賃金は上がらず、好循環に至りそうもない。
 東北の公共工事請負金額は14年度の2兆8480億円をピークに下降を続ける。個人消費を表す東北の百貨店・スーパー販売額は前回衆院選があった14年以降、漸減傾向から抜け出せない。
 今回の衆院選では新党の「希望の党」「立憲民主党」が出現し中央政界は大きく揺れ動いているが、地方は蚊帳の外に置かれた感が強い。復興をどう進め、被災地の未来をどう描くかは判然としない。
 震災から6年半が過ぎた。東京電力福島第1原発事故の影響は現在進行形で続く。選挙はある意味で、被災地と政治の距離が縮まる数少ない機会と言える。
 東北の有権者はいま一度、被災地の現状と将来に思いを巡らして、遠のく政治を引き寄せるための1票を投じる必要がある。