少子高齢化で国内市場が縮小する中、自由貿易を推進し海外の成長を取り込む。経済成長を第一に掲げる安倍政権の通商政策である。
 だが、通商が相手国との交渉で決まる以上、プラスを得る代わりにマイナスを強いられる分野が出てくる。日本では、いつも農業である。
 離脱した米国抜きの環太平洋連携協定(TPP)とともに最終交渉が年末にかけ大詰めを迎える欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)にしても、日本製の乗用車や家電が輸出しやすくなる半面、EU産のチーズや豚肉、木材が安価で流入しかねない。
 畜産をはじめ、林業を含む国内生産者に不安が広がる。
 16日にワシントンであった日米経済対話では米国が、自由貿易協定(FTA)の交渉入りを事実上要求してきた。対日貿易赤字の削減に向け、かねてやり玉に挙げてきた牛・豚肉とともにコメの市場開放を迫ってくるのは必至だ。
 コメを巡っては、来年産から生産調整(減反)が廃止となる。米価がどう推移するかを含め、営農の先行きに懸念がある。日米FTAが現実味を帯びたことは、この基本政策の抜本的転換に伴う不安を一層増幅させかねない。
 生産現場に不安が広がるのは、将来にわたって営農が継続できるのかどうか、そのことに確信が持てないからだ。
 通商政策と農政の転換に伴うそうした不安の声に、どう向き合い、どのように応えていくのか。そのことが、今衆院選で各党に問われている。
 その不安は、消費者とも無縁ではない。
 営農の前途を悲観すれば、廃業する農業者が増える。彼らの農地が、安倍農政が推し進めるように、担い手に集積され大規模化が進めば、望みはあろう。だが実際、大規模化路線は条件不利な中山間地で思うように進まず全体的に頭打ち傾向にあり、そうした農地は荒廃する恐れがある。
 そのことは農業のさらなる衰退につながる。外国産農産物が増える貿易自由化との兼ね合いで言えば、食料自給率がまた低下する恐れがある。
 消費者にとっては、生産者の顔が見える安心で安全な国内産を手にする機会が損なわれ、命と健康に関わる食料を自ら自由に選べなくなる。
 生産現場に渦巻く不安を払拭(ふっしょく)できなければ、そうした事態をも招きかねないことを消費者も再認識した上で、食料・農業・農村に関わる各党の訴えに耳を澄ましたい。
 貿易自由化に伴う影響で与党は、農家の減収分を穴埋めする対策を強化するという。経営安定に向け、各野党からは補助金廃止による農家直接支払いへの一本化、再生産を可能とする戸別所得補償の活用・法制化なども挙がる。
 営農継続に向け将来不安を払拭してくれるのは、どの党の訴えか。そうした見極めができるよう、各党による論戦が活発化することを望む。