廃炉作業が進む東京電力福島第1原発の汚染水を巡り、東電の川村隆会長の発言が大問題となったのは、わずか数カ月前のことだ。にもかかわらず、今回の衆院選で、触れられないのはなぜだろうか。
 原子炉建屋に流れ込んだ地下水や雨水が、溶融燃料(燃料デブリ)を冷やした水と混じり発生する汚染水。特に多核種除去設備(ALPS)などによる浄化でも取り除けない放射性物質「トリチウム」を含む水の処理問題だ。今も原発敷地内に増設するタンクにたまり続けている。
 東電の川村会長は7月、報道機関のインタビューに「もう判断している」と述べ、海洋放出の方針を決めたかのように発言。地元漁協など福島県内から猛反発を受け、東電が「社の判断ではない」と謝罪する事態に追い込まれた。
 衆院選はエネルギー政策で「原発ゼロ」を目指すかどうかが争点の一つになっているが、現在進行形の原発事故対応の議論は低調。汚染水対策への言及は極めて少ない。
 自民党は政権公約で廃炉・汚染水対策に「引き続き国が前面に立って取り組む」と宣言するものの、トリチウム水は総合政策集で「一定の浄化水の処理について検討を進める」と曖昧に記す程度だ。
 共産党の公約は「政府も東電も汚染水をいずれ海に流せば良いとする安易で許しがたい発想で、無責任な対応に終始してきた」と批判するが、対応策は提示していない。
 トリチウム水の処理を巡っては、国の検討会が昨年6月、希釈しての海洋放出が最も短期間に低コストで処理できるとの技術的な評価結果をまとめた。同年11月からは別の小委員会が方法の絞り込みに向けた議論を続けている。
 一方、原子力規制委員会は通常の原発でも行われているとして、海洋放出を東電に要求。主体的に方針を打ち出すよう迫った結果、川村会長の発言につながった。
 国の小委員会の議論を見守り、東電がどう決断するかを注視する。そんな政治が傍観者側に回る現状のままで、果たしていいのだろうか。
 仮に東電が海洋放出の方針を打ち出せば、地元は「深刻な風評被害を招く」と断固反対するのは間違いない。東電と地元が対決、交渉する構図に押し込めてしまっていいとはとても思えない。
 そもそも風評被害に関しては消費者の受け止め方が最大の課題で、不安払拭(ふっしょく)や解決の役割は政治こそ担える。
 海洋放出以外を選択するなら、コストの負担方法などの検討が必要。いずれにしろ、国民的議論が欠かせない。
 トリチウム水の処理は越えるべき課題が多い。衆院選で各党が口をつぐむのもそのためだろうが、難題だからこそ、政治主導で議論の俎上(そじょう)に載せることも考えるべきではないか。少なくとも成り行きを見守るだけが正しい政治の在りようとは思えない。