結婚後も旧姓を使い続けるケースが広がりつつある。
 政府は9月、国家公務員を対象に旧姓使用を全面的に認めることを申し合わせた。先行実施した特許庁や裁判官に続き、準備が整い次第運用が始まる。
 ただ、目先の不便は解消されるとはいえ、あくまで通称としての使用であり、結婚によって姓を変えなければならない不利益が解決されるわけではない。
 旧姓使用の容認は、行政や司法からの要請を受けたものだ。政府は女性活躍推進に向けた重点方針に、旧姓の通称としての使用拡大を盛り込んでいる。夫婦別姓を認めない民法の規定を合憲とした2015年12月の最高裁判決は、「通称使用が広まれば一定程度、(改姓の不利益が)緩和される」と、判断理由の一つに挙げている。
 国は「働きたい女性が不便さを感じ、働く意欲が阻害されることのないよう、女性活躍の視点に立った制度」の整備と位置付ける。
 しかし、姓名は「活躍」するかどうかにかかわらず尊重されるべき個人の尊厳の一つのはず。改姓するのは9割以上が女性という不平等が放置されているのは理不尽だ。
 国家公務員に旧姓使用が容認されたとしても、地方や民間では対応に差がある。内閣府が昨年10月に実施した調査では、条件付きも含め旧姓使用を認めている企業は調査対象の半数程度。規模が小さい企業では旧姓使用を検討したことや認めたことがないという割合が3割を超える。
 大都市と町村でも開きがあり、東北では容認は3割程度にとどまった。認めていない理由も「社内で要望がない」「これまで検討したことがない」が他地域に比べて高く、消極的な姿勢が見える。
 法制審議会が選択的夫婦別姓制度導入を答申して20年以上がたつ。夫婦同姓を法で義務付けるのは国際的に見ても今や日本ぐらいだ。国連の女性差別撤廃委員会から是正勧告を受けていながら、いまだに見直しの気配はないのはなぜなのか。
 15年の最高裁判決は15人の裁判官のうち5人が違憲とし、女性裁判官は3人全員が違憲の反対意見だった。
 多数意見は、姓が家族の呼称であり、それを一つにする意義を強調した。一方、少数意見は、離婚や再婚の増加、非婚・晩婚化、高齢化などで家族形態が多様化する実態を捉えて、「氏が果たす家族の呼称という意義や機能をそれほど重視することはできない」と反論した。
 国家に都合のいい女性の働き方や家族のありようを前提とするのでなく、多くは妻となって姓が変わる者のみが負担する「自己喪失感」に向き合うことが求められる。
 「個人の尊厳と両性の本質的平等」(憲法24条)に立ち返った制度を本格的に議論するべき時ではないか。