「大筋」だとしても、これで「合意」と言えるのかどうか。甚だ疑問である。
 離脱した米国抜きで、日本を含む参加11カ国が交渉してきた環太平洋連携協定(TPP)の新協定案のことだ。
 ベトナムでの閣僚会合で大筋合意したと発表はされた。だがカナダの「反乱」で首脳会合は見送られ、首脳同士が合意を確認できなかった。カナダのトルドー首相は「最善の協定にするため、まだ作業は残っている」と語り、いつ最終決着するかは流動的だ。
 これでは、日本政府が目指す新協定案の早期署名も、早期発効も見通せまい。
 経済規模で全体の約60%を占める米国が離脱したのだ。協定の大前提が崩れたのだから、新協定づくりは一から議論し直してしかるべきだ。
 にもかかわらず、協定を原形に近い形にとどめて、発効させようと交渉してきた。
 無理が生じるのは当たり前のことではないか。カナダの不満ばかりではない。不利益になりかねないとして、日本国内の農業関係者らにあった懸念も解消されてはいない。
 新協定案を巡り、疑念と不安が消えない。湧いてくるのは疑問ばかりだ。
 新協定案は米国が復帰することを前提にまとめられた。それ故、作者の死後70年間の著作権保護を義務づける規定をはじめ、米国の要求で通った項目を中心に凍結することが柱となっている。復帰すれば、凍結が解除される。
 11カ国は新協定が発効すれば、貿易・投資で不利になる米国が復帰を求めてくると期待する。だがトランプ大統領は復帰を否定。2国間協定を重視し相手国に市場開放を迫る姿勢を崩してはいない。
 日米2国間交渉に踏み込ませず、どうやって米国を元の多国間のさやに収めるのか。その確かな戦略は見えない。
 地方には畜産分野で懸念がある。関税や輸入枠に関する合意は維持される。このため米国からの輸入を前提としたバター・脱脂粉乳の低関税輸入枠は、離脱した米国分を除外して設定し直すのが筋なのに、変更はない。牛・豚肉でも似たようなケースがある。
 これでは生産者らが理不尽にも不利益を被りかねない。
 新協定案には発効後に見直せる規定があるという。だが関税や輸入枠の修正が見送られたのは、それらを認めれば各国から要求が相次ぎ、収拾がつかなくなるからだ。
 だから、この規定にどれだけの実効性があるのかは疑問だ。不満をかわす単なる「ガス抜き」規定ではないのか。
 米国の離脱に伴い、アジアでの経済覇権拡大をもくろむ中国をけん制する意味合いもあって、交渉を主導し大筋合意を急いだのは日本だ。
 だが大筋合意劇と新協定案には、そのひずみが散見される。数々の疑問に対する答えを含め、交渉の狙い・経過と協定内容について、まずは政府に丁寧な説明を求めたい。