「実行」という連呼が耳に残った。内容がコンパクトだった分、具体論に乏しく言葉が躍っている印象は否めない。安倍晋三首相がきのう行った所信表明演説である。
 衆院選大勝による絶対的な安定多数の政治基盤の下で、何を目指していくのか。一つは宿願の憲法改正に向けての議論前進を示した。
 自民党内で改憲案の意見集約が進められているが、首相が提唱した憲法9条への自衛隊明記を取っても異論が少なくない。与党の公明党が慎重な姿勢を見せ、立憲民主党をはじめ野党の反対も強い。
 与野党の枠を超えた議論を求めたのは、「視界不良」の現状に対して安倍首相がいら立ちを持っていることの表れではなかったか。ただ、自分が前面に出れば反発を招くとの計算も働いていたはずで、表現は抑制的だった。
 取り組む重点課題に掲げたのは衆院解散時と同様、「国難」との表現を使った北朝鮮情勢と少子高齢化である。
 核・ミサイル開発を急速に進める北朝鮮について、米国、中国、ロシアなど国際社会と共に、圧力を一層強化していく考えを改めて強調した。
 強硬路線一辺倒の姿勢からは、手詰まり感さえ伝わってくる。日本の対応として「ミサイル防衛体制をはじめとする防衛力を強化する」と言うだけでは説得力に欠ける。
 少子高齢化対策としては「生産性革命」と「人づくり革命」のキャッチフレーズを挙げ、人材への投資や賃上げの後押し、幼児教育の無償化など「分配」に力点を置いた。
 「アベノミクス」の影の部分とも言える格差是正に、取り組まざるを得ないということだろう。子育て世代の支援の財源として消費税増税分の使途見直しを改めて表明したが、財政再建の具体的な道筋に触れなかったのは責任ある態度とは言えまい。
 東日本大震災の被災地復興については「一層加速するため生業(なりわい)の復興、心の復興を力強く支援していく」と語った。今後、どう実現していくのか、中身が問われよう。
 野党に対して「それぞれの政策を大いに戦わせ、建設的な議論を」と呼び掛けた。しかし、国会での動きを見ると、演説とは裏腹の対応が際立つ。質問時間を巡る議席数に合わせた配分の見直しが象徴的だ。猛反発した野党との攻防が今なお続いている。
 加計(かけ)学園の獣医学部新設問題や森友学園の国有地払い下げ問題の追及ばかりではなく、政策本位の討論をすべきだ、とでも言いたかったか。
 「丁寧な説明」を繰り返してきた安倍首相である。圧倒的な数の優位からすれば、野党の主張に耳を傾ける謙虚さがあってしかるべきだ。
 「安倍1強」の中で、国会の行政監視機能が一段と求められる。与野党間での緊張ある論戦は不可欠だ。分裂で「多弱」となった野党の力が、これから試されることになる。