東北の地に生きる者としてうれしい知らせだった。
 大崎市と近隣4町に広がる「大崎耕土」の水田農業システムが、国連食糧農業機関(FAO)から世界農業遺産の認定を受けた。全国で9地域目、東北では初めてだ。
 大崎耕土では、古くから培われてきた「巧みな水管理」を柱とした水田農業、その農文化と湿地生態系に基づく生物多様性、独特な農村景観が一体となって営まれている。
 認定は、この農業システムが未来に残すべき「生きた遺産」として世界的価値があるとの、いわばお墨付きだ。
 認定を目指し取り組んできた地元関係者の喜びはひとしおだろう。だが認定はゴールではない、新たな出発点だ。そう受け止めてほしい。
 世界が認めたこの営みを守り、次代へとつなぐためには持続可能な地域農業の確立が不可欠だ。そのために、どう行動すべきか。農家も行政も、農協、企業、消費者も不断に考える「礎」としたい。
 評価の要となったのは「しなやかな水管理」といえる。江合川と鳴瀬川の流域に広がる大崎地域は「やませ」による冷害、地形的要因による洪水や渇水に悩まされてきた。
 中世以降、取水ぜきや隧道(ずいどう)、ため池などの水利施設を流域に整えるとともに、地縁組織「契約講」を基盤とする水利組織によって、洪水対策として水田を組み合わせた遊水地を設けるといったように、冷害・渇水対策の水管理にも工夫を重ねてきた。
 その主体である農家の暮らしを支え、洪水や冬の北西風から守ってきたのが「居久根(いぐね)」と呼ばれる屋敷林である。
 実のなる多様な樹木や草本類で構成され、食生活にも彩りを添えた。「水田に浮かぶ森」として、周辺の水路・水田とつながり、稲の害虫の天敵を含む多様な動植物の生息環境を提供し、日本の原風景的景観をも形づくってきた。
 世界農業遺産に認められたということは、地域や農産物の「付加価値」が高まること以上に、このシステムを保全し価値を高める責任が、地域に生じたことも意味する。
 農業の担い手を確保、育成し、担い手たちが生活していける地域農業の仕組みを構築していかなければなるまい。
 そうした観点から見て気になるのが、認定申請で大崎耕土のことを自ら「豊穣(ほうじょう)の大地」と表現していることだ。「誇り」なのだろう。だが、それは「おごり」「慢心」と裏表の関係ともいえる。
 大崎でも、マガンの越冬を支える「ふゆみずたんぼ」が農薬や化学肥料に頼らないコメ作りを生んだという例はある。だが県内のほかの地域と比べ、農業の先駆的な取り組みが目立たないのは確かだ。
 先人たちが耕した「沃土(よくど)」の上に、あぐらをかいてはいなかったか。そう省みつつ、環境の変化に多様な対応が可能な「しなやかな地域農業」づくりに挑んでもらいたい。