地方の思いを代弁するように本田敏秋遠野市長が嘆いていた。「看板が林立し、地方創生がかすんで見える」
 至極もっとも。安倍晋三首相は政策の体系整理もそこそこに、「一億総活躍」だ、「女性活躍」だ、と耳目を集めるフレーズを矢継ぎ早に繰り出し、最近はこれに「人づくり革命」が加わった。
 人口減少の克服と東京一極集中の是正を目指して「まち・ひと・しごと創生法」が施行されたのは2014年11月。わずか3年前のことだ。
 全国の自治体に半ば強制的に策定させた地方版総合戦略は19年度までの5カ年が実施期間になっている。この辺で一度立ち止まり、事業を検証すべきではないか。
 ある町は東京から数人の女子大生を呼び寄せ、観光名所を案内する事業で国の補助金を得た。見たまま聞いたままをインターネットの会員制交流サイト(SNS)で発信するのが彼女たちの役割だ。これのどこが人口減少対策なのだろうか。
 後先考えずに補助金や交付金の獲得に走る自治体も問題だが、「努力する自治体は支援するが、そうでない自治体は支援しない」(山本幸三前地方創生担当相)と地域間競争に駆り立てる国の手法が、まずもって安易に過ぎる。
 国が財政支援のめりはりを強調する背景には、1980年代末に竹下内閣が打ち出したふるさと創生事業の反省がある。全国全ての自治体に一律1億円をばらまいて批判された交付金だ。
 しかし、総額1千億円の地方創生加速化交付金も事業費全額を国が負担する点はふるさと創生と同じだった。むしろ使途が自由だった分、ふるさと創生の方がよかったという見方すらある。
 安倍首相の記者会見などを聞く限り、地方創生とは詰まるところ「規制緩和」の言い換え語らしいが、省庁に首相の号令が届いているようにも思えない。
 米作りを次世代に伝えようと福島県只見町は、自前の米焼酎造りを始めた。原料米の生産から醸造、消費を地域で完結させる意欲的な試みだ。
 ところが酒税法では、あらかじめ出荷先が決まっていないと酒類製造免許が交付されない。山あいの小さな町が法の壁を乗り越える苦労は、並大抵でなかったという。
 交流人口の拡大で農村ににぎわいを取り戻そうと、農家民泊に注目が集まっている。農林水産省は農泊推進対策の交付金を用意したが、説明会から申請締め切りまで時間が少なく、応募者は約半月で100ページ超の手続き書類作成を強いられたという。
 米焼酎造りも農泊も、土地の宝を発見し、誇り、未来に伝えるというまっとうな地方創生の実践例だ。地域再生に不熱心な自治体などないのだから、政府には競争原理を改めてもらい、地方創生政策を組み直してほしい。